WSJ(2011年10月29日付「東証社長、オリンパス第三者委の人選を注視」)によれば、東京証券取引所の斉藤惇社長は28日の定例記者会見でオリンパスの第三者委員会の設置について「選ばれた委員の多くが経営陣寄りだった場合、株主代表訴訟になる可能性がある」と指摘したという。それはその通りなのだが株主代表訴訟は会社法に基づく一般的な制度なので東証の社長がわざわざ言及するまでもない気がする。東証には資本市場の重要な担い手としての役割を果敢に果たしていただきたいところだ。
東証は(上場審査途中でもない限り)経営について直接調査することは難しいが、上場会社に対して開示という武器がある。常々「コーポレート・ガバナンスは説明責任がキーである」と自説開陳しているわけであるが、実際に適時開示実務はこの説明責任を担保する手段としてけっこう効いている、というのが企業の中の人としての実感である。
ということで今日は開示で考えてみる。
第一に、問題視されている3社の買収で過去の開示が不十分だったのは、東証の開示基準にも原因がある。子会社の異動を伴う事項に関する東証有価証券上場規程第402条第1号qによれば、子会社の規模に関するクライテリアとして総資産が親会社の連結純資産の30%、同様に売上高、経常利益、当期純利益、資本金の項目が続く。
今回の問題の買収ではこれらのクライテリアを超えない小規模の会社を選んで非常に高い評価額で買うことによって開示を避けているようだ(注1)。再発を防ぐためには、当該子会社への累計投資額も基準に加えれば今回のような開示忌避はできなくなる。東証は、この累計投資額に関連手数料も含めた上でこれが一定額以上の子会社についてはのれんと償却についても開示を義務付けることを検討してはいかだだろうか。
次。
2010年3月に実施された$620Mという巨額の優先株買取は開示事項に当らないのだろうか。
東証有価証券上場規程第402条第1号qによれば「子会社等の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得その他の子会社等の異動を伴う事項」は直ちに開示しなければならない。重要性のクライテリアは上述の通り。
オ社取締役会で優先株買取が決議されたのは2010年3月だから直前期の2009年3月期有価証券報告書を見ると連結純資産は1,687億円。前年の3,678億円からほぼ2,000億円も激しく減少しているのは今般の騒動で問題とされている買収の減損処理が一因だ。1,687億円の30%は506億円。優先株の取得価額(値上がり分ではない)である$620Mは2010年3月末日のレートで576億円。はい、超えてますね。
しかしこの優先株買取は「ジャイラス社の完全統合を目的とした株主権の買取」ではあったものの、子会社の異動には当らないのでこの規定は該当しない。
それでは東証有価証券上場規程第402条第1号r「固定資産の取得」はどうだろう。重要性のクライテリアは同じく連結純資産の30%だからこれも超えている。ところがよく読むとこの固定資産は会計上の定義ではなく法人税法の定義に基づき「固定資産 土地(土地の上に存する権利を含む。)、減価償却資産、電話加入権その他の資産で政令で定めるものをいう」(法人税法第2条第22号)となっており、有価証券である優先株は含まないからこれまた開示対象外。
素晴らしく開示基準を回避しておりますね。まるで最初から狙ったみたいに。
しかし、法には立法趣旨と言うものがある。東証開示規定にしても子会社や実物資産に対する重要な投資が開示対象となるのだから、子会社(Gyrus社)に関連する追加の支出も重要性がある場合には開示されるべきだろう。東証はこの点についても必要な改正を考慮すべきである。
最後。
包括的な定めとして、金商法第166条第2項第8号の「子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」も開示対象である(会社情報適時開示ガイドブック2011年6月版)。2010年3月に行われた「ジャイラス社の完全統合を目的」として行われた株主権の買取が$620Mと評価されるほど重要なものであったなら、具体的には前回のエントリで指摘したとおり1)有利な配当付債券と2)重要事項拒否権が$620Mという重要性を持つものであったなら、その買取は「子会社の運営に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」として開示されるべきだっただろう。更に言えば、それらが2008年10月にサイドレターで追加的にFAに付与された時点で(ウ氏主張「ウ氏資料」参照)開示されるべきだったのだ。
従って東証は自身の問題として、オ社が開示ルールに違反していた疑いを追及すべきではないだろうか。
※ 2011年11月3日追記
(注1)この見方を裏付けるように、WSJは2011年11月1日付「オリンパス買収の3社、当初休眠状態だった 信用調査などで判明」でこれら3社はオ社が投資するまで、ほとんど事業実績がなかったことを報じている。開示回避のためには規模の小さな会社のほうが望ましく、また巨額の投資対象にするためには以前から存在する会社の方が説明しやすい。もっとも3社のうち1社は(手当がつかず?)直前に設立されたようだ。
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