2011年10月28日金曜日

オリンパス騒動 西部戦線異常あり?

オリンパス騒動のような企業を舞台にした疑惑について、「望ましいのにそうしなかった」、とか「通常はこうするはず」という攻めはあまり意味がない。例えば、
・大きなM&Aには大きなFAや会計事務所を使うことが「望ましい」
FA報酬は「通常は」そんなに高くない
・第三者委員会の結論を得る前に新社長が断定的な発言をしないことが望ましい
などなど。
これらの他者に対する期待は我々日本人にお馴染みの空気を読む文化によって当事者を拘束している間は有効だが、当事者が「いや、これで良いのだ」と開き直ってしまったときには意味をなさない。
この文脈で今般のオリンパス騒動における会社側というか経営陣は、批判を浴びている割には致命的な攻撃を受けることなくうまく持久戦に持ち込んでいる。

攻め手が有効な打撃を与えるには抽象的な空気の話ではなく、「ルール違反」と「ロジック破綻」を攻める必要があるのだ。

前置きが長くなった。オリンパス騒動で疑惑を攻めるならどこだろう?
オ社は20089月に発行された$177M相当の優先株を20103月に$620Mで買い取っており、結果的に$443Mの売却益をFAに与え、同時に$443Mはのれん計上された事実には争いがない。一見過去の買収とは直接関係のない優先株買取の値上がり分支払いがのれんとして認識される理由は、昨日のエントリ「オ社追加情報開示」のとおり「ジャイラス社を当社の100%保有とすることを目的とした株主権の買取りである」からだという。

あれ? 100%子会社にするのは2008年に決定された方針であって、そのためにストックオプションと交換に優先株を発行したはず。2008年の時点で、後に改めて100%支配のために高値で買い取らざるを得なくなるような優先株を発行したのがおかしい、という指摘は報道や各ブログ等でお見かけする。この点に対して予想される経営陣の反論は「いろいろ事情があって現金での支払いを避けるため、債券の働きをする優先株を発行した。現金流出を避けたのはオ社の利益にも適う」だろう。実際、オ社開示でも「10%期待配当の永久価値」と表現されているのでこの優先株には無期限で10%配当が約束されていた。これで議決権がなかったなら(この点については情報がないけれど、そうでないと説明がつかない)、実質は債券だったので100%保有方針と相反するものではなかった、という説明も成り立つ。

ふむ。ならばどうして$177Mの債券相当として発行された優先株が1年半後の20103月に3.5倍の$620Mになったのか。オ社開示資料「ジャイラス社買収(株式オプション買取)の経緯」によれば$177Mの元本が、
1)10%の永久配当で+$265M
2)なんらかのプレミアムで+$178M
の評価によって合計$620Mになったようだ(計算では$632M)。
1)は上述のとおりだが、2)の説明が見当たらない。

ここで参考になるのがウ氏情報。ウ氏資料によれば、2008930日に発行された優先株に対し2008103日オ社サイドレターにてAXAMに重要事項の拒否権を含むGyrusrights of controlを付与したという。また買取価格の交渉においては、重要事項拒否権と大きな配当率によるコントロール・プレミアムが考慮されたという。
ということはオ社資料には直接の記載がないが、オ社が優先株に付した重要事項拒否権というコントロール・プレミアムが短期間の値上がり要因の一つだったことになる。

ところで、思い返せば100%保有方針決定後だったゆえ他社に経営関与させないよう議決権なしの永久配当つき債券ライクな優先株を発行したはずだった。だが、重要事項拒否権は重大な経営関与事項。これを100%保持方針決定後に他社に付与するのは明らかに矛盾する。しかも1年半後にそれを「100%保有とすることを目的とした株主権の買取り」という名目で、しかも3.5倍のお金を払って買い戻すことは到底説明がつかない。
このアレンジは当初から高値での買戻しを意図しており、発案者はその経営関与にまつわる矛盾に気づいていたのかもしれない。だからこそウ氏資料のとおり、当初の優先株式引受契約ではなく3日後のサイドレターでひっそりと隠すように行われ、オ社開示には含まれていないのだろう。

さらにone more thing。ここまでの検討でわかるように、$177Mだったはずの優先株が$620Mに跳ね上がったのは1)配当と2)重要事項拒否権によるコントロール・プレミアムだった。ところでその二つの要因は優先株発行の3日後には成就していた、即ち当該優先株は発行のわずか3日後にはオ社経営陣自らの手によって3.5倍($443M増加)に値上がりしていたのである。もとから$177Mではなく$620Mの優先株を発行したのと同じだ。$177Mのストックオプションと引き換えに$620Mの優先株を渡したのだ。
これらは株主の財産を預かり株主に対して忠実義務を負う取締役の責務からの逸脱だろう。

優先株発行の説明が揺らぐと、その買取に伴ってのれん計上された$443Mの正当性も再検討が迫られるかもしれない。

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