2011年11月6日日曜日

オリンパス騒動 コーポレート・ガバナンス(社外取締役編)

ところでオリンパスのコーポレート・ガバナンスはどうだったのか。
気になる取締役会構成を見てみると201111月時点で取締役人数は15人、うち社外取締役は3人であるから、会社規模を考えれば日本企業としては進んでいる方と言えよう。遅れていると評される伝統的/典型的日本企業の取締役会は人数が多く、社外取締役がいないか、いても1人だ。

社外取締役導入で進んでいたオ社がこのような問題を起こすと、「社外取締役を導入すれば日本企業のコーポレート・ガバナンスは向上する」という主張はどうなっているんだ、という疑問が生じるのが道理である。
筆者は常日頃、お仕事を通じてコーポレート・ガバナンスにおける社外取締役の有用性を理解しているつもりなので、オリンパス騒動で「社外取締役なんて不要説」が盛り上がらないように先手を打っておきたい。

まず3社買収(株式買増し)を決定した20082月の取締役会において、当時の社外取締役は(なんと!)1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・エー・マンデル氏と元通産省及び元資源エネルギー庁長官の豊島格氏の2人である。この2人が当該取締役会に出席したかは明らかではないが、仮に出席していたとして3社の買収について経済学者と元官僚にとって会社から配布された乏しい資料で、かつ形式上は第三者の算定書のエンドースがあると言われれば反対することは難しかったであろう。さらに会計面は監査法人が事前であれ事後であれ責任をもってチェックするという期待が一般に取締役に存在する。
そもそも社外取締役に期待されているのは、厳密に言えば取締役会の中で少数派にとどまる社外取締役に期待されているのは、プロセスの適正性担保である。限られた情報ではあるが一連のオ社の社内手続を見る限りプロセスの外観上の適正さ確保にはかなり気を使っており、それは彼ら社外取締役がいたからこそと言えるのかもしれない。

次に20103月に$620Mで優先株を買取りすぐに支払うことを取締役会で決議した時、社外取締役は3人だった。藤田力也氏(医師,病院院長)、林純一氏(元野村証券,アイ・ティー・エックス監査役)、千葉昌信氏(元日経新聞,元日経BP専務取締役)である。この3人も当該取締役会に出席していたかは明らかではないが、出席していたとして話を進めよう。まずM&Aにからむ優先株の買取となれば元野村証券の林氏の経験を活かした厳しいチェックを期待したいところであるが、林氏が監査役を務めているアイ・ティー・エックス社はオ社の子会社であり、従って林氏はオ社グループの役員なのだから独立した立場で監督ができるのか疑問がある。会社法の規定上、子会社の取締役は社外取締役になれないが、監査役はokという取扱いに問題はないのか。
藤田氏は医師であり病院関係者だからオ社の本業と密接な関係があると推測される。実際、オ社は藤田氏が理事長を務める財団法人に寄付をしていたことを2007年の訂正報告書で報告している。これについても子会社役員同様、会社と取引関係等がある組織からの取締役は社外取締役に含めるべきではないという会社法を巡る議論がある。
千葉氏については独立性について一見問題がなさそうに見えるが、千葉氏が20116月に社外取締役を退任した後、同じく元日経、元日経BPの来間紘氏が入れ代わりで選任されているところを見ると、これはオ社と日経グループとの何らかの関係に基づく選任と疑われても仕方がない。となるとやはり独立性を期待できないのは前述の千葉氏と同様である。

ちなみに齋藤(2011)によれば、日本がその後を追っている米国で最も一般的な社外取締役は他社の現役経営者であり、米国のみならず欧州各国を含めて取締役会の過半を社外取締役が占めることが多いという。他社経営者が選ばれるのは形式の適正性だけでなく議題の中身、具体的には投資計画の妥当性やリスク回避策等にまで立ち入って判断することが期待されており、また取締役会の過半を占めるのはいつでも経営陣を更迭できるという現実のプレッシャーを持つことが重要であることを意味している。
まぁ、逆に日本の現状とは離れすぎていて、それゆえ日本企業がこの方向性(欧米型取締役会導入)を警戒し過敏になっている面がなきにしもあらず。それにこの欧米型取締役会構造の背景にあるのは、プロとしての経営者市場、それを支える高額報酬、経営の共通言語としてのMBA等の教育、などなど他の制度や習慣と補完的なシステムなので、そう簡単に一部だけ取り入れることはできないのだ。「だから日本社会全体の変革を、、、」云々は神学論争になるのでここでは立ち入らない。

オ社取締役会は2008年の時点では、経営者ではないにしろ独立性という意味では問題がなかった元官僚、著名経済学者を擁していたのに、2010年時点では人数こそ2人から3人に増えたものの、3人全員が会社との独立性が疑われる状態に劣化していた。
このガバナンス劣化が同時期に進行していた疑惑の買収等に絡んで経営者によって意識的になされたものかどうかはわからないが、仮にもしそうだとしたら社外取締役推進派には朗報だ。なぜなら

たとえ他社経営者(プロ経営者)ではなくても独立した社外取締役の存在は形式面の適正性担保として機能するだけでなく、その存在のもとでは不合理な案件を押し通しにくいので不合理な案件を予期する経営陣は社外取締役の独立性を緩めるインセンティブを持つ。従って社外取締役の定義を厳しくし実質的な独立性を確保することがコーポレート・ガバナンスに有効

という格好の事例になるからである。

今日の教訓:
コーポレート・ガバナンスに社外取締役が無意味なのではない。むしろ実質的独立性確保を強化すべき。

<参考文献>
齋藤卓爾「日本企業による社外取締役の導入の決定要因とその効果」宮島英昭編『日本の企業統治』東洋経済新報社,2011

20111109日 一部加筆

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