Gyrus社買収に関してファイナンシャルアドバイザー(FA)に支払われた手数料は〆て$687M。
ウ氏資料内でも指摘されているとおり、こうしたM&A案件の手数料は「高くても」買収金額の1%。ちなみに私が仕事で関わった国内案件では、けっこう手間と時間がかかったものでも手数料は1%の半分をだいぶ下回っている(私が値切ったのだが)。2000億円というGyrus社の案件であれば1%の20億円が上限だったはずだが、実際に支払われたのは$687M(2010年3月末の為替レートで換算して約639億円)だから、世間の相場上限の約30倍だ(私の相場だとほぼ100倍ですけど)。
従ってこの手数料額は一般的な許容範囲を超えている、と言えるだろう。
ではこの尋常でない額の手数料を支払った経営陣の責任を追及するとどうなるだろうか?
オ社経営陣は「一連の報道に対する当社の見解について」で$687Mのうち$443Mは報酬として発行したストックオプション(後に優先株に差替え)$177Mの値上がり分だから報酬額は$244Mだと主張しているようだ。もっともウ氏資料の経緯を見る限りワラント買取の$500Mもストックオプションの$177Mに由来するようなので、そうだとすると手数料は減少して$194Mとなり、むしろウ氏説の方がオ社経営陣にとって望ましい説明のような気がする(2日前のエントリ「オリンパス騒動 まずは経緯の整理」参照)。この$194Mだと買収金額の約10%となり相場の1%よりはるかに高いとは言え、$687Mの30%超に比べるとなんとなく優しい気分になって攻める気が薄れてしまうのが不思議だ。
仮に公の場で議論したとき、「1%という数字はあくまで相場であって、基準やルールがあるわけではない。10%でも経営陣がそれだけの価値があると判断したのだ」と言い張られたら、法的な責任をそれ以上追及するのは難しいかもしれない。
だが、オ社株主は自ら選任した取締役が大事な会社資産をムダにしなかったか、について立証の必要はなく是か非かを判断するだけで良い。その判断のためには必要な情報と説明を要求するべきで、報道によれば既に海外の大株主がそのような要請を始めているようだ(2011年10月21日付Bloomberg記事)。もし非と判断する株主が多数派になれば経営陣の将来の再任を否決するか、さらに任期途中で解任する選択肢もある。ここでいう多数派は株主の頭数ではなく持株数で決まるのが資本多数決である。
ならば成功報酬としてストックオプションをFAに付与し($177M)、後に4倍近い金額($670M)で買い戻したことに問題はないのか、次回に乞うご期待。
【追記】なぜストックオプション?
次回で書くつもりだったけれど、FAの報酬を対象会社のストックオプションで払うのは珍しい。しかも契約書上で成功報酬の85%、実際には90%を超える極めて高い割合だったからなおさら疑問だ。受け取る側のFAだって、ふつう現金を好むでしょ? わざわざこんなことをするのは手数料が過大になるのを防ぎつつ別名目で資金を動かせるように、これらのストックオプション(後にワラント、優先株)に値上がりの余地を残し後に高値での買戻しを当初から意図していたのかもしれない。
だとすれば、オ社経営陣は最終的にオ社が買い戻した値上がり分の$443M(ワラントを含めれば$493M)については、もう少し声高に「報酬ではない!」と主張するのが道理だが、「一連の報道に対する当社の見解について」における記載は心なしか控えめだ。
オリンパス騒動 まずは経緯の整理 <FA報酬> 経緯 2010年3月31日 にあるとおり、この買戻しで$435Mがのれんに計上された、とウ氏は指摘している。それが事実であれば、まったくの推測だが、この$443Mという巨大な金額が当期(買戻しを行った2010年3月期)の損失になることを避けるため、のれん計上が必要で、そのためにはこれが当該M&Aにかかる手数料であると説明する必要があった。皮肉にもそれは当初このスキームが目指した、値上がりしたストックオプション(後のワラント、優先株)の買戻しによる資金移動は過去の買収手数料とは関係ないという建て付けと矛盾するものだった。ということなのかもしれない。
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