オリンパス株式会社の社長解職に端を発した騒動(以下「本件」)について、備忘も兼ねてまとめついでにアップ。
こういった不祥事(確定していないが)が起こると「監督官庁や検察は早く動け」という声があがるもので本件も例外ではないようだが、企業の中で自社を守ったり他社を攻めたりする仕事に携わっている身としては、経営の失敗(と思われるもの)を違法性で攻めるのは難しいと思う。
このような観点から、本件において違法性を追求するのが意外に難しい点、それでも攻めるならどこがポイントか、も付け加えてみたい(できたら)。
経営の失敗は会社に損失をもたらし、企業価値を毀損し、株価を下げる。それで困るのは株主だ。株主は自らの財産の価値増大と維持管理を代理人としての取締役/監査役に委任しているわけだから企業不祥事について一義的に行動の責任を負うのは株主と取締役/監査役である。
コーポレート・ガバナンス一般に敷衍すれば、法令やレギュレーションの強化よりも大切なのは資本の論理、市場の論理に従った当事者自らの最適化行動を促す仕組みと環境であろう。
<参考資料>
・マイケル・ウッドフォード前社長(以下「ウ氏」)の主張
2011年10月11日付 Letter 6: SERIOUS GOVERNANCE CONCERNS RELATING TO THE COMPANY’S M&A ACTIVITIES (以下「ウ氏資料」)
・オリンパス株式会社(以下「オ社」)の主張
・オ社追加情報開示;Gyrus社及び3社買収について経緯の詳細
・監査法人の交代プレスリリース(2009年6月)
・ウ氏が社内疑惑を追求する発端となったFACTA記事
・ウ氏社長解職プレスリリース
・ウ氏解任と疑惑を報じたFinancial Times記事
■ Gyrus社買収の件
<FA報酬> 経緯
2006年6月5日
ファイナンシャルアドバイザー(以下「FA」)AXESと最初の契約締結
・基本報酬 $5M
・成功報酬 買収金額の1%(ただし現金20%、ストックオプション80%)
2007年6月21日
AXESとの契約改訂
・成功報酬 買収金額の5%(ただし現金15%、ストックオプションとワラント85%)
・成功報酬の現金部分の支払いを取引完了日ベースから取引公表日ベースに変更
*この改訂は稟議で決裁され、取締役会では2007年11月19日に事後承認された
*契約書の文言により実際には5%を大きく超える報酬計算を可能にしている
2008年2月
買収完了に伴い、成功報酬は以下の通り計算
$12M 現金
$177M ストックオプション
$189M 合計(買収金額の10%)
2008年4月25日
取締役会決議にてGyrus社はオ社組織再編対象に。この結果Gyrus社の再上場可能性がなくなったためAXES保有のストックオプションを優先株($177M)と交換し、ワラントをオ社が$50Mで現金で買い取ることに
2008年7月31日
ストックオプションと引き換えに発行する優先株について、KPMGとWeil, Gotshal & Mages (WGM)は「(優先株発行ではなく)現金でストックオプションを買い上げることが望ましい」とアドバイス → オ社に受け入れられず
2008年9月30日
オ社、Gyrus, AXES, AXAM間の株式引受契約に基づき優先株発行
・額面$177M
・配当は額面に対し年率10%(無期限)→ 後にGyrus税引後利益の85%に変更
2008年10月3日
オ社サイドレターにてAXAMに重要事項の拒否権を含むGyrusのrights of controlを付与
2008年11月25日
AXAMがすべての投資資産を現金化したいので優先株をオ社が買い取るか、他の譲渡先を見つけるようオ社に要請。AXAMの要望額は$532M - $592M。オ社が独自に得た新光証券による評価額は$557M
2008年11月28日
オ社取締役会にて$530 M - $590Mの範囲で買戻しを承認
2010年3月16日
AXAMのサガワ氏が優先株を$730Mですぐに買い取り3月末までに送金するよう要請
前回交渉時の$532M - $592Mより金額が大きく上がっているのは重要事項拒否権と大きな配当率によるコントロール・プレミアムを考慮
2010年3月31日
$620MをAXAMに支払。$620Mは自社評価額$519MとAXAM主張$730Mの中間
これによりのれんが$435M増加と指摘(ウ氏)
2011年10月14日
オ社取締役会にてウ氏を代表取締役および社長執行役員から解職
オ社取締役会にてウ氏を代表取締役および社長執行役員から解職
特別利害関係のあるウ氏は決議に参加せず他の取締役全員一致で決議(オ社)
<FA報酬> まとめ
当初の合意と最終的に支払った報酬額
2007年改訂版 | 最終支払額 | ||
基本報酬 | $5M | 基本報酬 | $5M |
成功報酬(現金) | $12M | 成功報酬(現金) | $12M |
オプション | $177M | ワラント | $50M |
優先株の買取 | $620M | ||
合 計 | $194M | 合 計 | $687M |
<英国との関係>
ウ氏が英国当局と接触している旨の報道がなされているが、ウ氏資料にも言及がある。
the UK Companies Act 1985により買収対象会社(ここではGyrus社)が買収会社(オ社)に経済的支援(AXAMに対する優先株発行)を行うことは禁じられており違法である(ウ氏)
<会計>
Gyrus社2009年3月期財務諸表において同社優先株負債は額面で計上されているが、2008年11月28日にはオ社が額面をはるかに超える金額で当該優先株の買取を決議していたため、これは誤りであると指摘(ウ氏)
Gyrus社2009年3月期の会計監査においてKPMGは意見表明を差し控えており、また優先株発行について「適切な会計記録がなされていない」と指摘(ウ氏)
なお、オ社の会計監査人は2009年6月にKPMG(あずさ監査法人)から新日本有限責任監査法人に変更されている。理由は任期満了
<FAの実態>
2011年10月23日付 The New York Timesが本件に関与したとされる人物とFAについて報じている(2 Japanese Bankers at Heart of Olympus Fee Inquiry)。
AXESはアメリカ籍の会社で2008年3月(Gyrusのディールが成立した翌月)に当局に対して活動停止を通知している。AXAMはケイマン籍の会社で2010年6月(優先株の売却代金を受け取った3ヵ月後)にライセンスフィーを払わずに登録を取り消されている。NYTによればこの2社の実質的な経営者は同一人物である
ふうう。まずはここまで。次回は「疑問編」突入を目指しましょう。
※ 2011年10月23日 ウ氏代表取締役解任を追加(資料と経緯)
※ 2011年10月24日 ウ氏解任FT記事を追加(資料)
※ 2011年10月24日 NYT記事を基にFAの記述を修正
0 件のコメント:
コメントを投稿