実際、マイクロソフトはその強大な影響力ゆえ1998年に提訴され2000年6月にはOS事業とアプリケーションソフト事業に分割される命令が出されたが、2001年11月には分割を回避する和解が成立した。この分割回避は2000年前後のITバブル崩壊やリナックス普及を背景としたマイクロソフトの地位低下を裏付けるものであり(*1)(*2)、実際にAT&Tが分割されて(1984)、強制的にモジュール化が進められたのと対照的である。
新しい科学技術は、学術もしくは研究分野で誕生し、有用性が確認された時点で企業用途に使われ、最後に一般コンシューマ向けに普及していくことが多い(*3)。この過程で信頼性は向上し、価格は低下する。この過程を新技術普及パターンと呼ぼう。もちろん、有用性や信頼性が十分でなかったり、普及価格帯まで価格が低下しない場合にはこのパターンの途中で終わることになる。
通信一般、特にインターネットは新技術普及パターンの典型的な事例であるし、昨今クラウド・コンピューティングと比較される電気の発明・普及も同様である(*4)。
2000年頃には機能性と信頼性が「十分」になったPCは、この頃からブロードバンド化が急速に進行したインターネット接続と一体となって、それまでのビジネス領域や個人のイノベーター、アーリー・アドプターを超えて一般コンシューマに受け入れられていった(*5)。なお、ここでは『キャズム』の分類に加えてビジネス向け/コンシューマ向けの分類を加えており、PCがビジネスに普及した後に一般コンシューマに普及していった点を重視している。
新技術普及パターンの重要な含意は、企業向けから一般コンシューマ向け即ち一般家庭向けへの移行に伴って製品/サービスの性格が変化することである。この変化をコンシューマー化と呼ぶことにしよう。
- ビジネス → プライベート
- フォーマル → カジュアル
- 複雑で専門的 → シンプルで簡単
- 自己責任 → 安全安心
※2011年6月6日:最近の考察を反映して「カジュアル化」を「コンシューマー化」に修正
(*1) 浅井(2004) pp.133-134
(*2) 既に述べてきたように、マイクロソフトはユーザを初めとするPCエコシステム参加者に便益を提供してきた点も考慮されたであろう。
(*3) Cowhey, Peter and J.D.Aronson (2009)
(*4) カー(2008)
(*5) ムーア(2002)は、新技術に基づく製品を受け入れるユーザ層を区分し、時間的な順に、イノベーター、アーリー・アドプター、アーリー・マジョリティー、レイト・マジョリティー、ラガードに分類している。ここでいう一般コンシューマは、アーリー・マジョリティーとレイト・マジョリティーをイメージしている。
<参考文献>
ニコラス・カー,村上彩訳『クラウド化する世界』翔泳社 2008
ジェフリー・ムーア,川又政治訳『キャズム』翔泳社 2002
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