1)統合型
製品が十分でない状況では統合が有利である。製品が機能性と信頼性が十分でない状況では、企業はできる限り優れた製品を作る必要がある。モジュール型はインターフェースの標準化により設計の自由度が低いから、統合型の提供する機能性、信頼性にかなわない。
2)モジュール型
製品機能の向上が一段落すると、大きな変化はなく持続的部分的改善が進む。機能性と信頼性は十分なレベルに達したのだ。機能性はもう十分なので、インターフェースを固定して多少の自由度が制約されても問題ない。統合型でより良いものを提供しても顧客はそれを評価してくれない。顧客の要望は便利さや速度にシフトしてくる。これに対応するにはモジュール化が適している。こうしてモジュール化が進行する。
言うまでもなく、導入期・成長期を生き延びてきた過程で、参入をもくろむ競合企業は多数存在しており、彼らがモジュール毎に特化して侵食してくる。
3)再統合
時間の経過につれ製品が普及し、改善が進み、やがて顧客が重視する機能がシフトする。例えばパソコンの機能性と信頼性が向上し業務用途もこなすようになると、顧客の要望はマイクロソフトのOSと明確なインターフェースでつながったサードパーティのソフトウェア、例えばワードパーフェクトやロータス123を使うようになった(モジュール化)。さらにソフトウェア同士のデータやり取り(テキストファイルに限らず罫線、図形、計算式と値等々)が要求されるようになると、ふたたびその分野は十分でないことになり、マイクロソフトがOSとアプリケーションソフトの統合を行ってこれに対応した(統合化)。
再統合について、もう少し説明しよう。
ある製品が導入され成長する過程では製品の姿はしばしば変更され安定しないが、成熟期に入ると大きな変更は少なくなる。ここでいう製品の姿とは乗用車で言えば4本のゴムタイヤ、ハンドル、ブレーキとアクセル、エンジン、座席と荷室といった要素の組み合わせだ。これらをアーキテクチャという。成熟期に入って製品アーキテクチャが安定し累積ユーザ数が増大すると、顧客の要望がシフトしたときに影響を受けて統合化されるのは全体アーキテクチャの中の一部分である。パソコンならインテルCPU、マイクロソフトのOS、ハードディスク、キーボード等のアーキテクチャが定まったあと、その中で例えばOSとアプリケーションソフトの統合が起きる、ということだ。
従ってモジュール化から再統合化への流れはファインがいうような完全なゆり戻しではなく、あくまでもモジュール化構造の中で部分的な統合化が生じる、ということになる(*2)。
ファインの二重らせん構造をクリステンセンの指摘に伴い若干調整して製品ライフサイクルと重ね合わせると以下のようになる。
ライフサイクル | 導入期 | 成長期 | 成熟期 | 衰退期 |
統合/モジュール | 統合型 | モジュール型 (部分的統合) | ||
性 能 | 不十分 | 十 分 |
ここでクリステンセンによる1990年代のアップル凋落の説明を引用してみよう。
「パソコン産業の草創期には、独自アーキテクチャを持ち、最も統合化の進んだ企業、アップルコンピュータが、ずば抜けて優れたデスクトップコンピュータをつくっていた。これらはモジュール構造のコンピュータに比べて使いやすく、クラッシュの頻度も低かった。やがて、デスクトップ・コンピュータの機能性が十分上がると、IBMのモジュール型のオープンな標準アーキテクチャが優勢になった。十分でない状況では競争優位だったアップルの独自アーキテクチャは、十分以上に良い状況では競争の障害となった。モジュール式マシンを製造する特化型メーカーがパソコン産業の爆発的な成長を捉えると、アップルはニッチ・プレーヤーの地位に追いやられた。」(*3)
(*1) 同書では相互依存型となっているが、ここでは統合型としている
(*2) 実際には成熟期・衰退期には企業の水平・垂直統合が相当程度進むことがあるが、それはここで論じているモジュール化/統合化とは異なる要因によるものである。それらについても後ほど考察しなければならない。
(*3) クリステンセン(2003) pp.165-166
0 件のコメント:
コメントを投稿