2012年2月4日土曜日

ステマ、サクラ規制に関する簡単な日米対比考察

年明け早々カカクコムが運営するサイト「食べログ」の不正投稿が報道されて以来、ステマ(ステルス・マーケティング)がバズワードになっている。

・2012年1月4日付 日経報道 「「食べログ」にやらせ投稿 カカクコムが法的措置も
・2012年1月5日付 カカクコム社プレスリリース「本日の報道内容に関して

これを受けて消費者庁が調査を始めたとされるが、その後、現行の景品表示法では法的規制は難しいという消費者庁の認識も報道されており、なんとなくモヤモヤした状態が続いている。

「食べログ」騒動に対応して消費者庁がすぐに動いた(ように見える)のには伏線があって、既に一部で指摘されていたインターネット上のゲーム課金や口コミサイトへのサクラ投稿の問題を受けて、同庁は「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「留意事項」)を昨年10月に発表している。

ここでは口コミサイトへのサクラ投稿の問題に絞って話を進めよう。

「留意事項」によれば、現行の景品表示法で考える限り、サクラ投稿は「実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には」不当表示として問題となる。飲食店(飲食店に依頼された第三者を含む)が地鶏の産地を偽る投稿を行うこと、が例示されている。産地偽装はステマやサクラから独立してそれ自体がルール違反だから、ステマやサクラは新たな問題を付加していないようにも読める。

うーん、そうなのか。なんとなく違和感が残る。なんだろう、この違和感の原因は?
ステマの本質的な問題は、投稿者(宣伝者)が第三者を装っているところでしょう。地鶏の産地の話じゃなくて。

広告規制が厳しいと言われる米国はどうなんだろうか。
さすが消費者庁、「留意事項」の中で米国の規制状況を引用している。2009年12月に連邦取引委員会(FTC)が公表した「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」(以下「米ガイドライン」がそれである。消費者庁「留意事項」の引用によれば「米ガイドライン」では、
この中でFTCは、広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両社の間に重大なつながり(material connection)があった場合、広告主のこのような方法による虚偽の又はミスリーディングな広告行為は、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当り、広告主は同法に基づく法的責任を負う、との解釈指針を示している。
ふむふむそうですか。日本と大きくは変わらないようですね。

ではFTCサイトで原文 "Guides Concerning the Use of Endorsement and Testimonials in Advertising" に当ってみましょう。いくつか頑張って和訳(誤訳御免)。
S255.1 (d) 広告主は、広告主以外の人物による推薦内容が誤っていたり裏付けがないときに、または広告主と推薦者の重大なつながり(筆者注;金銭的なやり取り等)が明示されないとき責任を負う。推薦者もまた推薦内容に責任を負う場合がある。
S255.1 Example 5 スキンケア商品の広告主がブログ広告サービスを使うと、同サービスはブログで広告主の商品の販促を担うブロガーを選び出し、広告主は新しいボディローションを試してレビューをブログに書いてくれるようブロガーに依頼する。広告主がそのボディローションの特定の効能について言及せず、ブロガーも効能の裏付けがあるかどうか広告主に質問しなかったが、ブロガーはこのボディローションで湿疹が治ると肌荒れに悩む読者にブログで推薦した。この場合、広告主はこのブロガーのミスリーディングまたは裏づけのない推薦に責任を負う。ブロガーも同様である。ブロガーはこのブログ広告サービスで報酬をもらっていることを明示しないと、この点についても責任を負う。
S255.2 (a) ユーザによる推薦を使用する広告は、その商品がその広告で描かれた目的に有効であることを表明したとみなされる。したがって、ユーザ推薦を用いることなく広告主自身が広告を作る場合と同じように、ユーザの推薦内容について、それを支持する適切な裏づけ、適当な場合には信頼できる科学的なエビデンスが必要である。ユーザの推薦自体は適切で信頼できる科学的エビデンスではない。
あらら、日本の「留意事項」に比べて厳しいんじゃないでしょうか。かなり。
  1. 推薦者が広告主から報酬(金銭、または無料商品)を得ている場合、それを明示しなければならない
  2. 広告主以外のユーザ等が商品の推薦を行う場合であっても、広告主はその推薦内容について、広告主自身が直接広告を行う場合と同様の裏付け(適当な場合には科学的根拠)が必要
特に1.の広告主との関係は、「口コミによる推薦に対する評価や信頼性に重要な影響を及ぼし得るので明示される必要がある」と「米ガイドライン」が規定しているのに対し、日本の「留意事項」では言及がない。というよりも先の引用で明らかなように意図的にこの点を避けているようにも見えますね。まぁ、景品表示法上では、という限界なのかもしれませんが。。。

まとめると、まず日本の「留意事項」を一読して感じる違和感と、アメリカの「米ガイドライン」を読んで明らかになる日米差異は同じ問題で、それは「広告主と口コミ投稿者との関係」。口コミ情報の信頼性に重要な影響を与えるこの関係について、アメリカでは明示を義務づけ、日本では特に規制なし(アメリカでの実際の運用がどのようなものかはわかりませんが)。

情報の信頼性はネット社会における重要な論点であり、「誰がその情報を発信したのか」、「誰がその情報を評価したのか」につながっていく。この点は日本でももう少し議論の必要があるようですね。

最後に「誰がその情報を発信したのか」、「誰がその情報を評価したのか」という現代的な課題について、前近代的と忌避される「伝統的日本社会=ムラ社会」が一つの解を提示していたという皮肉を付記しておきたい。

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