1)アメリカでアップルによってネット携帯電話の「ニワトリ・卵」が解決され、ひとたびネット携帯電話のエコシステムが定着すれば、日本のガラケーもスマートフォン同様に売れるはずであるが、2011年春時点では日米ともにスマートフォンの勢いが圧倒的である。それはなぜか。
平成 | 西暦 | 普及率 | 前年比 |
6 | 1994 | 13.9 | |
7 | 1995 | 15.6 | 12.23 |
8 | 1996 | 17.3 | 10.90 |
9 | 1997 | 22.1 | 27.75 |
10 | 1998 | 25.2 | 14.03 |
11 | 1999 | 29.5 | 17.06 |
12 | 2000 | 38.6 | 30.85 |
13 | 2001 | 50.1 | 29.79 |
14 | 2002 | 57.2 | 14.17 |
15 | 2003 | 63.3 | 10.66 |
16 | 2004 | 65.7 | 3.79 |
17 | 2005 | 64.6 | -1.67 |
18 | 2006 | 68.3 | 5.73 |
19 | 2007 | 71.0 | 3.95 |
20 | 2008 | 73.1 | 2.96 |
21 | 2009 | 73.2 | 0.14 |
22 | 2010 | 74.6 | 1.91 |
上記は日本のパソコン世帯普及率である。これを見みると1990年代は着実に成長しているものの水準は低く1999年でも30%に届かず、その後2000年から2003年頃にかけて急速に伸びたことがわかる。伊丹(2001)によれば、1999年のアメリカにおけるパソコン普及率は50%を超えており、さらに企業や学校での普及率や利用状況を考慮すると1990年代末の時点でアメリカのパソコン利用は日本に比べて大きく進んでいたという。
このパソコン利用における日米の差が、2000年代を通じてiモードに始まるネット接続を前提とした携帯電話(以下「ネット携帯電話」)が日本で独自の進化を遂げる一方、欧米で普及しなかった要因となる。
1999年2月にNTTドコモがiモードを開始したとき、前述のように日本ではアメリカに比してPCとインターネットの普及が遅れていたため、ネット端末としてのPCが確立していなかった。だからネットがユビキタスを目指してコンシューマ市場への浸透を図りネット端末にパーソナル化、コンシューマ化が求められたとき、そしてPCがその要求にすぐには応えられそうにないとき、既にモバイル化した電子デバイスとして十分に普及していた携帯電話がネット接続機能を得てネット端末の主役を狙うのは自然な流れだった。
NTTドコモに続いて他通信キャリアもiモード同様のサービスを開始し、ネット携帯電話は凄まじい勢いで普及していった。下表の通り、1999年に開始してわずか5年後の2003年には日本の「総人口」に対してほぼ50%の普及を果たし、その2年後の2005年には60%に達している。まさに爆発的な勢いと言えよう。1980年代から普及が始まったPCは2003年に「世帯」に対してようやく60%だ。
このように日本ではiモード開始を契機としてネット携帯電話がPCの代わりにネットの端末レイヤーの主役となった。
ネット携帯電話の数 | ||
CY | IP接続 | |
1998 | 0 | |
1999 | 4,000,000 | ←推定 |
2000 | 26,866,500 | |
2001 | 48,495,400 | |
2002 | 59,527,700 | |
2003 | 67,805,800 | |
2004 | 73,554,600 | |
2005 | 78,252,700 |
データ:社団法人 電気通信事業者協会(TCA),(注1)
なぜアメリカでは2000年代にネット携帯電話が普及しなかったのか?
アメリカでは1990年代にPCの普及と利用が進み、ネット端末の標準となっていたからだ。2000年代に入ってアマゾンが電子商取引の雄となりアップルはiTunesで音楽配信に成功。これらは基本的にPCをインフラとしている。グーグルも同様にPCウェブベースのサービスによってマイクロソフトを凌ぐ会社となった。このように、アメリカでは1990年代に普及したネットとその端末としてのPCを、2000年代にインフラとして利用してネットサービスを進化させ世界的にネットの覇権を握った。
アメリカではネット端末の標準となっていたPCに対応して、他のレイヤー、特にコンテンツ/アプリケーションはPCを前提としており、PC向けウェブページにアクセスできることがネット端末の必須要件だった。
だが当時の携帯電話では画面の狭さやハード性能、モバイル回線の貧弱さによりPC向けのウェブページにストレスなくアクセスすることは不可能だった。コンテンツ提供者もPC向け以外にネット携帯電話向けサイトを作るインセンティブがなかったから、アメリカでは携帯電話のボトルネックが解消されて携帯電話でPC向けウェブページにアクセスできるようになるまではネット携帯電話は受け入れられなかった。
このように振り返ってみるとネット利用に関し、2000年代を通じてアメリカはPCをインフラとして使いこなす一方でユビキタス化(コンシューマ化、モバイル化)に不満を持ち続けていた。日本はネット端末としてPCではなくネット携帯電話が主流となりユビキタス化(コンシューマ化、モバイル化)を享受した一方で、キャリア毎に分立したサービスに囲われネットの自由さと豊富な情報から隔絶されていた。(注2)
以前のエントリ統合化とモジュール化 日本のケータイで、iモードが海外進出に失敗したのはドコモが日本でそうしたように補完的サービスも含めて統合的に提供しなかったからだ、と書いた。しかしアメリカでは仮にドコモが統合的に提供したとしてもうまく行かなかっただろう。アメリカのユーザはPCでのネット体験を知っているが故に、当時の携帯電話でのネット体験には我慢できなかったのだ。
2000年代も後半になってくると、PCベース端末の小型化、高速化、大容量化と同時にモバイル回線の高速化も進み、技術的ボトルネックが解消された。そこで高詳細タッチパネルを用いることによって端末の小型化と表示部の大型化を両立し、PCウェブ画面にアクセスできるようにしたのが2007年に発表されたiPhoneである。PCウェブ画面表示にはモバイル回線の高速化も重要なため、3G回線に対応してからのiPhoneが本当のスマートフォンと言えるだろう。PCにパーソナル、モバイルという付加価値をつけたスマートフォンはアメリカで急速に広まっていく。
こうして2000年代を通じて端末レイヤーの主役の座を争った「モバイル化するPC」(アメリカ)と「PC化する携帯電話」(日本)はスマートフォンという「モバイル化するPC」の勝利で決着がついた。
同じ高機能・多機能な携帯電話なのにアメリカだけでなく日本でもガラケーよりスマートフォンが売れているのは? という宿題の答。
ネットはあらゆる分野で基礎として使われるGPT(汎用技術)としてユビキタスを目指す。その実現に向けて、PCがネット端末としてコンシューマ市場に浸透すべく環境適応したものがスマートフォンでありスマートデバイスだ。2010年代に入ってネット・コンピューティングのユビキタス利用がグローバルに実現しつつあり、アメリカも日本もその環境に包含されつつある。言い方を変えれば、携帯電話の統合型エコシステム(生態系)などというものはもはや存在せず、あるのはネットのエコシステムだけだ。
そんな環境を前提にしたとき、日本のガラケーのように携帯電話から出発してネット接続を付加したものはPC向けウェブにアクセスできなかったり、ネット利用に制限がかかりPCベースのスマートフォンに勝てないのが2011年5月の現状だ。
(注1)1999年分は統計がないため、松永(2000)の記述等を参考に推定
(注2)だから2000年代に携帯電話をネット接続の主役にした日本のやり方が間違っていたわけではないし、アメリカに比べて劣っていたわけでもない。問題はその後の環境変化への対応を怠った点にある。
<参考文献>
伊丹敬之、伊丹研究室『情報化はなぜ遅れたか』NTT出版,2001
松永真理『iモード事件』角川書店,2000
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