2011年5月28日土曜日

統合化とモジュール化 日本のケータイ3

ネットのレイヤー化,GPTの3ステージ

2010年後半から急速な盛り上がりを見せるスマートフォンにしろ、2011年に2代目が発売されたiPadにしてもスマートデバイスの主戦場はコンシューマ市場である。
まつもと(2011)は「パソコンは企業から導入が始まったが、スマートデバイスはコンシューマから先に受け入れられている」と指摘している(p.184)。野村総研(2011)は、これらスマートデバイスによって企業よりも個人のIT利用環境のほうが高度化する現象を「産消逆転」現象と呼んでいる。
従来ITといえば企業における情報処理や生産性向上が中心だったのに、2011年現在スマートデバイスがコンシューマ市場を主戦場として盛り上がりを見せているのはなぜだろうか。

「ネットのレイヤー化」

インターネットのレイヤー構造
 
 
 
 
コンテンツ・アプリケーション
レイヤー
 
 
 
 
プラットフォーム(認証課金)
レイヤー
 
 
 
 
ネットワーク
レイヤー
 
 
 
 
端末
レイヤー
 
 
 
 


ネットの4つのレイヤー構造は既に何度か登場したが、ここでは端末レイヤーに注目しよう。1990年代のインターネット普及初期にインターネット接続と言えばPCを使うのが普通だった。だがインターネットが普及しインフラとして使われるようになるにつれて、ユビキタス即ち「いつでもどこでもネット接続」が要求されるようになったため、従来のPCだけでは対応できなくなってきた。

1981年にIBM-PCが生まれたとき、PCはあくまでも小さなコンピュータであり、スタンドアロンだった。だが通信の発達に伴い企業では専用線、後には個人が電話線を使って他のコンピュータと繋ぐことが一般的になってきた。さらに1990年代中頃にインターネットが商用に解放され、爆発的に普及し始めるとPCは「ネットの端末」として再定義された。
この歴史的経緯により、ネットの端末はPCが始祖であり標準となった。このことは後に大きな意味を持つことになる。

ネットの端末レイヤーにモバイル化、パーソナル化、多様化が求められ始めた1990年代後半において、PCがそれらの要求を満たすことは技術的にまだ困難であり、高速化、大容量化、さらに固定回線から無線回線への切り替えには今しばらく時間が必要だった。一方で既にパーソナル化、モバイル化している電子バイスが存在した。それが携帯電話である。当然のように携帯電話のネット端末化の試みもなされた。
ネットが4つのレイヤー構造にモジュール化されて端末レイヤーが独立して以降、端末レイヤーの主役の座を争ったのが「モバイル化するPC」と「PC化する携帯電話」だった。

GPTと3つのステージ」
GPT(General Purpose Technologies;汎用技術)という概念がある。内燃機関(例えばガソリンエンジン)や電気等の社会のあらゆる部分に影響を与えるGPTは、学術・研究の世界で発見・実用化され、企業で利用され、最後にコンシューマに普及していくという3つのステージを経る。身も蓋もない言い方をすれば、まずコスト度外視で学術界で使われ、まだ高くても有用性が高いと企業で使われだし、品質が安定し安価になると最後にコンシューマに使われるようになる、ということだ。
ネットもGPTの一つだと言われている。カー(2008)がクラウドを論じる中でネットのメタファーとして電気の歴史を対比させているのは象徴的だ。ネットがGPTなら、今ネットはGPTの3つのステージのどこにいるのだろうか。

ネット及びその端末としてのPCは、現在「コンシューマ普及」の初期段階に入ったところだ。インターネットは学術・研究の世界で誕生し、1990年代中盤に商用に解放され企業の利用が進んだ。そしてネットが発達しユビキタスを目指す過程でコンシューマ市場が最後に残ったが、先に述べたようにネット端末としてのPC2000年代において処理速度、容量、通信回線速度・価格がネックとなりコンシューマ市場に十分浸透できなかった。
一方で携帯電話も同様の制約からネット端末の主役の座にはつけなかったが、日本だけは別の経緯を辿ることになった。これは別稿で論じよう。

このようにコンシューマ市場侵入を目論むPCの後裔たちの中でついに目的を達したのがiPhoneやアンドロイドに代表されるスマートフォンであった。
「なぜスマートデバイスはコンシューマ市場で盛んなのか」という冒頭の問いの答えがこれで明らかになっただろう。そもそもスマートデバイスはネット端末の始祖であるPCの進化形としてコンシューマ市場攻略を目的としている。そして2010年代を目前にして処理速度、記憶容量、モバイル通信速度・価格等が技術革新によって「十分になり」ボトルネックが解消されたことによって目的達成が可能になった。即ちスマートデバイスがPCベースのネット端末として最後に残されたコンシューマ市場に浸透し、ネットがGPT(汎用技術)の地位を確立しつつあるのが現在我々が目にしている光景なのだ。


<参考文献>
まつもとあつし『スマートデバイスが生む商機』インプレスジャパン,2011
野村総合研究所技術調査部『ITロードマップ 2011年版』東洋経済新報社,2011
ニコラス・カー『クラウド化する世界』翔泳社,2008

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