モジュール型/統合型の観察対象には垂直方向と水平方向がある。経済用語の垂直統合、水平統合と同様の意味である。ここでは両者を区別し、垂直方向の統合化/モジュール化に対象を限定する。具体例を挙げると、iPhoneに通話機能とメール機能があるのは水平統合だから、ここでは議論の対象にしない。iPhoneのアプリはiPhoneとApp StoreとiTunesで垂直に統合されているので、ここでの議論の対象になる。
この結果、多機能(汎用)/特定機能(特定用途)の議論はここでの対象から外れる。それは水平統合の議論だからである。製品内のアーキテクチャを議論したUlrich(1995)、試行錯誤による技術革新を指摘したLanglois and Robertson(1992)の違いは後に大きな意味を持つ(はず)だが、先に進もう。
次に分析対象を特定する必要がある。一口にICTと言ってもiPhoneか、PCか、それともクラウドか。ここではインターネットのレイヤー構造を全体のフレームワークとし、iPhoneやPCをその内部構成要素と考える。
インターネットのレイヤー構造(*1)
コンテンツ・アプリケーション レイヤー | ||
レイヤー | ||
ネットワーク レイヤー | ||
端末 レイヤー | ||
このフレームワークをベースにアップルのiPodで音楽を楽しむ、という用途を以下に図示する。
アップル iPod
コンテンツ・アプリケーション レイヤー | iTunes | 楽曲購入,管理 | |||
レイヤー | iTunes | アップルID認証 クレジットカード決済 | |||
ネットワーク レイヤー | |||||
端末 レイヤー | PC iPod | 楽曲購入,管理 音楽再生 | |||
図中の4つのレイヤーのうち、3つがアップルによって提供されており、かつiPodを使う限りアップル以外では代替不可となっている。これが「アップルが統合的である」と指摘されるゆえんである。一方、谷脇(2008)が指摘するように、ネットワークレイヤー(インターネット接続)にはアップルは関与せずユーザの選択に任されている。また端末レイヤーのPCも同様にユーザの自由である。アップルは通信を持っていないが、Macを販売しているにも関わらずPC部分を統合せずオープンにしている点は注目に値する。
このようにインターネットのレイヤー構造をフレームワークとして垂直構造のみに着目してモジュール型/統合型を分析すると、iPodについてアップルは統合的であるが、完全に統合してはいないし、自社が競合製品を提供しているにもかかわらず統合せずオープンにしている部分が存在することがわかる。これはアップル自身がやみくもに垂直統合を推し進めているわけではなく、統合型とモジュール型それぞれに意味があることを暗示している。
(*1) 総務省 通信プラットフォーム研究会報告書(2009) をもとに若干加筆
<参考文献>
Karl Ulrich(1995), "The role of product architecture in the Manufacturing Firm," Resarch Policy 24
谷脇康彦『世界一不思議な日本のケータイ』インプレスR&D 2008
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