2011年2月27日日曜日

統合化とモジュール化 二重らせん構造

統合化/モジュール化の定義を検討したときに触れたように、「垂直統合」の意味は経済学、経営学のそれと同様である。従って経済学、経営学の垂直統合にかかる知見が有用だと思われる。
ノーベル経済学賞を受賞したコースやウィリアムソンの取引費用論をはじめ、企業の規模と活動範囲については多くの優れた先行研究が存在するが、ここではファイン(1999)に注目したい。

ファイン(1999)はある産業の産業構造が垂直統合と水平分業/モジュール化の間を往復することを指摘し、これを二重らせん構造と名づけている。例えば自転車産業の黎明期である19世紀半ばには小規模ながら垂直統合型企業が主流であったが、その後20世紀にはいる頃には米国で部品メーカと組立業者の水平分業が確立していた。その後、再び組立業者が配送、販売のバリューチェーンも確保して統合化を進めたという。
コンピュータ産業を見ても、もともとIBMが垂直統合で強大な力を誇っていたが、システム/360以降モジュール化が進み始め(*1)、PCの導入を機に水平分業/モジュール化が一気に支配的となった。その後PCの水平分業で覇権を握ったマイクロソフトはOSからアプリケーションソフト、ブラウザ、サーバと統合化を進めた。インテルもまたチップセットの統合化を進めた。

このように(程度の差はあるにせよ)モジュール化はICT産業特有ではなく他産業でも観察されるし、ICT業界においても2000年代後半のアップルを待つまでもなく統合化から水平分業、そして統合化の動きが繰り返されているのである。
いくつかの事例を観察すると、ある産業の黎明期には垂直統合型で始まり、やがてモジュール化されて水平分業化が進行、さらに今度は統合への動きが始まるというパターンが見られる。
その往復運動の原因についてファイン(1999)は、以下のように異なる力が作用すると説明している。

■垂直統合からモジュール化への動き
ニッチ市場への新規参入による競争、組織が官僚的になり硬直化する大企業病

■モジュール化から垂直統合への動き
あるモジュール(サブシステム)が傑出すると支配力を持ち、他のサブシステムを統合する

要するに産業ライフサイクル説の一種であり、うなずける気もするが、疑問も生じる。
1990年代後半、マイクロソフトがブラウザ等に活動範囲を拡大(統合化)する一方でアップルは統合型ゆえに失敗し存続の危機に立たされたのはなぜか。その後も一貫してICT産業においてモジュール化が支配的である続けているのはなぜか。そしてなぜ2011年現在、アップルが再び統合化で攻勢をかけているのはなぜか。

垂直統合とモジュール化の往復運動のどこに我々はいるのか?」


(*1) ボールドウィン、クラーク(2004)

<参考文献>
ボールドウィン、クラーク、安藤晴彦訳『デザイン・ルール』東洋経済新報社 2004
チャールズ・ファイン、小幡照雄訳『サプライチェーン・デザイン』日経BP社 1999

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