2011年2月26日土曜日

モジュール化 問題の所在

田中(2009)はモジュール化について3つの観察された事実を挙げている。
(A) モジュール化は情報通信の世界で生じた
(B) モジュール化が生じたのは最近30年
(C) 統合型製品を駆逐する圧倒的競争力

そしてこれらを説明できる唯一の原因は見当たらず、1)デジタル化、2)技術革新の促進の組み合わせを有力な要因と位置づけている。モジュール化と技術革新はしばしば指摘される点で、小さく分割されたモジュール単位でベンチャーが参入しやすい、またレゴブロックのように組み合わせを試行錯誤してイノベーションが起きやすいという(*1)。しかしこれらの要因ではモジュール化が進展するだけで、統合型へのゆり戻しが説明できない(*2)。デジタル化は進むことはあっても後退することはなく、技術革新の促進も一般に望ましいことだからである。

ここから筆者の問題意識に切り替えていこう。
上記の3つの観察された事実に加えるべき点がある。それはアップルのiPod, iPhone, iTunesとアマゾンのKindleである。前者はハードとネット上のサービスを結びつけ、後者はハードと通信をバンドルしてコンテンツを販売、表示する。そしていずれのデバイスもネットを通じてサービス提供者によるコントロールが可能になっている(*3)。これらは部分的ではあるが統合型製品である。

モジュール化について4つの観察された事実
(A) モジュール化は情報通信の世界で生じた
(B) モジュール化が生じたのは最近30年
(C) 統合型製品を駆逐する圧倒的競争力
(D) 近年、統合型であるアップルのiPod やiPhone, アマゾンのKindleが売れている

モジュラー化された情報通信の世界で、なぜアップルやアマゾンの統合型製品が席巻するのか。モジュラー化による技術革新の促進は引き続き望ましいのに、統合化でこれを放棄するのだろうか。これまで議論してきた要因だけでは説明できないようだ。
さらに、アップルは1990年代にモジュール化路線のPCに敗退し存続の危機に陥った過去がありモジュール化の優位性を理解しているはずなのに、なぜまた統合化を推し進めているのだろうか?


(*1) 例えばLanglois and Robertson(1992), Cowhey and Aronson(2009)
(*2) 田中(2009)の問題意識は情報通信の世界で統合化への回帰が生じている点にある。垂直統合型の携帯電話の隆盛がその一例とされている。
(*3) ジットレイン(2009)はこれらを「生み出す力を持たないひも付きアプライアンス」と呼びインターネットの懸念と捉えているが、ここではそのようなイデオロギー的意味は持たない。

<参考文献>
ジョナサン・ジットレイン,井口耕二訳『インターネットが死ぬ日』早川書房 2009
Cowhey, Peter and J.D.Aronson (2009), "Transforming Global Information and Communication Markets," The MIT Press
Langois, Richard and Paul Robertson (1992), "Network and Innovation in a Modular System: Lessons from the Microcomputer and Stereo Component Industry," Research Policy 21

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