オリンパスが疑惑のGyrus社と国内3社買収(「本件買収等」)について抗弁をあきらめて不正を自白した(2011年11月8日付「過去の損失計上先送りに関するお知らせ」)。それ以来、今まであんなに静かだった国内マスコミが大騒ぎを始め、筆者を含む一部のクラスタでは今さら感が盛り上がっている(下がっている?)今日この頃。
オ社が自白する前から本件疑惑は資金移動の手段であって目的は「何か」への対処だと主張していた筆者としては密かに鼻高々であるが、前向きに生きる限り過ぎたことは忘れてこれからに思いを馳せなければならない。
オ社が不正を認めたとはいえ、真相は未だ明らかになっていない中で、報道されている論調に違和感を感じる点を含め今現在思うところを記しておきたい。
<オ社が認めた内容を前提にすれば>
・ 本件買収等は既に生じていた過去の含み損処理であって、新たな損失を会社にもたらすものではない
・ 従って本件買収等支出の損害賠償を求める株主代表訴訟は成立しない
・ 過去の含み損がすべて処理されたのであれば、不正会計による追加損失は生じない
・ 従って(過去はともかく)現時点の株価は本件買収等で歪んでいない
・ ただし不正会計とは別にのれんの減損はあり得る
・ 少なくとも優先株買取でのれん計上したという$443Mの資産性は疑問
・ 上場廃止は重要な問題ではあるが、事業継続の観点ではクリティカルではない
ちなみにオ社は2008年度から2011年度の4年間で、のれんを合計1544億円ほど損失処理している(有価証券報告書より)。これは報道されている過去の損失先送り額とほぼ同等であり、先送りしてきた損失をすべて処理したという見方と整合的である。
もう一つは、本年のウッドフォード氏の社長起用である。何度も指摘してきたように、一連の本件買収等スキームでは機関決定や開示等の「外観上の手続適正性」に非常に気を配っている。もし2011年以降に本件買収等のような過去の不正処理を行うとすれば取締役会決議は避けて通れず、そうならわざわざ文化的部外者のウ氏を取締役会に招き入れることはない。たぶん菊川氏は「うしろめたい過去の処理は済んだ」と考えてウ氏を抜擢したのだろう。そこにはビジネスをグローバルに発展させる意図も含まれていたのかもしれない。
本件買収等で捻出した資金がすべて過去の損失処理に使われその処理が完了したのであれば、本件買収等の支出も既に損失処理されているので、2011年3月期の損益は正しく表示されていることになる。となると虚偽記載によって株価が不当に高く維持されたという歪みは存在せず、投資家は虚偽記載による損害を受けていない(ブランドの毀損は別)。かつて山一証券が損失を隠しきれない、処理できないで自主廃業に追い込まれたのとはそこが異なる。
それ以外に追加の損失は出ないのか。たぶんそこが現時点の最大のポイントだろう。本件買収等についてはほとんどが損失処理されているようだが、のれんに計上されたという優先株買取の値上がり相当分$443Mは資産性に疑問があり追加損失となる可能性が高い。残りののれん1300億円相当の資産性がどう判断されるか、第三者委員会、いや新日本監査法人の判断次第である。
こう考えると、過去の重大な虚偽記載事例と区別なく騒ぎ立てる報道には違和感を覚えなくもないのである。もちろん第三者委員会やその他の捜査でより重要なネガティブインパクト、例えば公表事実以外の損失、本件買収等に関する法令違反やコンプライアンス違反が発覚する恐れがあるから、楽観視してはいけない。
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