ツイッターつながりで@sakaimaさんがご自身のブログでコメントをくれたので、それを踏まえてもう少し考えてみる。
もともとこの件はホントに新聞/雑誌で減った広告費が全てネットに移行したのか、という疑問が発端で、もっとネット広告にお金を投入せよ、と主張しているわけではない。一方で現実に新聞や雑誌は苦境にあり、デジタル時代に「ジャーナリズムを誰が支えるのか?」という課題(新聞社/雑誌社の経営ではなく、記事というコンテンツ生成のシステム)は大きな問題だと思うので、あるべき姿なり解決策を僭越ながら考えている次第である。
話を戻すと、前回の論旨は「eyeballがテレビ等からネットに移ったほどには広告費はネットに移行していない」だった(注1)。
同じくツイッターで@ozyszmさんに教えていただいた情報によると、伸び続けてきたネット広告も頭打ち感があり、足元では年末に向けてテレビ広告が順調だという。やはりeyeballの移行に広告費が追従しないのだ。その原因として以下が考えられる。
1)なんらかの理由でネットへの広告費支出が妨げられている
2)eyeballの広告価値がテレビ等とネット上では異なる
3)そもそも既存メディアの広告価値低下はネットの影響ではない
上記2が@sakaimaさんの指摘である。その点について考察。
グーグルの検索広告は読んで字のごとくユーザの検索行為がトリガーになる。ここには二つの含意があって、一つはユーザが能動的に動く必要がある点(注2)。もう一つはユーザは認知していないものは検索できない点である。検索によるターゲティング広告の高い効率性は間違いなくイノベーションであり、広告効果の定量的把握の容易さと相まって急速に世界中を席巻したが、AIDMA(注3)であれAISAS(注4)であれ、ユーザが認知してからでないと出番が無い。商品やサービスの認知は検索広告では実現されず、少なくともわが国では今でもマスメディアがマス向けの認知を担っているのである。ちょうどこれを書いている11月17日付の日経ビジネスONLINEは「SNSがテレビCM? 外国人が信じられない理由」という記事で日本の特異性を伝えている。
認知用のマスメディア広告と、ターゲティングの検索広告は競合と言うより補完関係だ。そして現状の広告費内訳を見る限り、マス向け広告の比率は高い。こう考えると完全マス向けのテレビと全国紙が相対的に堅調で、中途半端なターゲティングの雑誌や新聞が苦しくなるのが論理的帰結。
eyeballの広告価値は、AISASのSearch(検索)まで来ればネット検索において非常に高いが、大多数のAttention(注意)以前のeyballについてはテレビ等の方がネット閲覧よりも高いのだろう(注5)。ネット広告はマスメディアから移行してきた多くのeyeballをマス向け認知広告に上手く利用できていないのだ。結果としてeyeball当りの平均広告価値は従来型マスメディアの方が大きい、というのが現状であろう。従って、eyeballの広告価値はネット上とテレビ等では同一ではない。
もちろんグーグルを含めて各社が検索広告の限界を超えるべく、ライフログ的情報蓄積&解析を持ち込んで自社が取り扱う広告のフィールドを広げつつ広告効果を上げようと試みているが、この方向性に一本調子に進むかどうか、技術的に可能であっても社会がそれを許すのか、個人的には若干の懐疑と不安を持っている。仮にこの方向に進むとすれば、広告費の配分において既存のマスメディアよりもグーグル等のネット企業の存在感が増すことになろう。その場合、媒体は何で、コンテンツは誰が作るのだろうか?
【本日の結論】
マスコミ四媒体広告費合計2兆8千万円に対し、インターネット広告費は約7千億円で頭打ち傾向(2009年,電通調べ)。マス認知用の従来型マスメディア、ターゲティング広告用のネット検索広告が補完的関係で住み分けつつある。
eyeballが従来型マスメディアからネットへ移行しているほどには広告費がネットへ移行していないことは、従来型マスメディアにおけるeyeballの平均広告価値がネット広告におけるそれよりも高いことを示唆している。
うーん、アメリカと違って日本では従来型マスメディアが早々にネットとの均衡を得てコンテンツ生成/広告費配分のプラットフォームであり続けるのかな。。。それならジャーナリズムの行く末を私がそんなに心配して考えることもないのだけれど。
【注】
(注1) テレビではなく、新聞/雑誌を例にとった方が良かったのだろう。
(注2) 同じネット上の検索でも、日本では受動的に画面上からディレクトリを選んでいくヤフーの人気が高く、アメリカでは能動的にキーワードを入力するグーグルが支配的である。
(注3) AIDMA ; Attention(注意), Interest(関心), Desire(欲求) , Memory(記憶) Action(行動)
(注4) AISAS ; Attention(注意), Interest(関心), Search(検索), Action(行動、購入), Share(共有、商品評価をネット上で共有しあう)
(注5) テレビや新聞雑誌でAttention(注意)を得てネット上でのSearch(検索)に誘導する広告が多いことがこれを裏付ける。
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