2012年5月26日土曜日

ウッドフォードさん、ちょっと違うかも

東洋経済の元オリンパス社長インタビュー記事(2012年5月25日付)。

ウッドフォード氏は、日本人はサムライと愚か者に分かれると指摘。愚か者はオリンパス新旧経営陣を、サムライは氏とともにオリンパス新旧経営陣を指弾する人を指すようです。
「イデオット(筆者注;愚か者)とは、たとえば先日(4月20日)のオリンパスの臨時株主総会で壇上に上がっていた人たちだ。不条理なことを言い、ふざけた行動をとる。
一方、サムライは信念を曲げず、人間関係によって態度をかえたりしない。たとえ戦うことになっても、妥協を選ばない」
ここにサムライについて重大な誤解がある気がします。
サムライは主君とお家に忠誠を誓います。このようなメンタリティが現代社会に持ち込まれると、上司は絶対であり所属組織の存続が最優先となります。その結果「会社のために世間を欺く」という企業不祥事が起きる。まさにウッドフォード氏が指弾しているオリンパスの事例でありましょう。

サムライの語が表象する武士道こそが、企業不祥事の多くの原因であり、コーポレート・ガバナンスの対処すべき課題なのです。
具体的な例として、昨今の会社法改正議論で注目を集めている社外取締役義務化の動きは、経営陣に忠誠を誓うのではない、会社存続を最優先に考えるのではない、独立した部外者の目を取締役会に導入しようとするものです。

このようにサムライの武士道すなわち「統治の倫理」は現代ビジネスと必ずしも相性が良くない、むしろ有害であるというのは、ジェイン・ジェイコブズが『市場の倫理 統治の倫理』で明らかにしており、これを受けて日本でも山岸俊男が同様の指摘をしています(例えば『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』)。

ウッドフォード氏はサムライという言葉で我々日本人の共感を集めたかったのかもしれませんが、適切ではない気がします。
もっとも、一貫して経営者市場という市場で自らの価値=評判を上げるための合理的行動をとっているウッドフォード氏は、ビジネスにおいては営利をわきまえた「市場の倫理」に基づいて行動をすべき、というジェイコブズや山岸の主張については、忠実に実践しているようですね。

日本では経営者市場があまり機能していないのでありますが。


<参考文献>
ジェイン・ジェイコブズ、香西泰訳『市場の倫理 統治の倫理』日本経済新聞社,1998
山岸俊男『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』集英社インターナショナル,2008

2012年5月21日月曜日

コンプガチャ 消費者庁規制の解説のような


5月18日、消費者庁より「「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて」が発表されました。

今まで報道されていたとおり、ソーシャルゲームのコンプガチャを景表法による規制対象とするものであり、逆に言えば景表法ではコンプガチャだけが規制されるわけであります。なお、厳密にはコンプガチャは新たに違法になるものではなく、従来から違法だったことが明らかにされたという建付けですね。

図1

<一度は>
先日のエントリ「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」に書いたとおり、景表法の枠組みで景品規制を考える場合、取引付随性が問題になります。事業者が提供する製品/サービスそのものである取引(本体)と、この販売のために顧客を誘引する景品(おまけ)が要件です。そもそもゲーム運営者はゲーム提供を生業としていますから、景表法規制を検討するならゲームタイトル、例えば「探検ドリームランド!」を取引(本体)と考えるのが自然でありましょう(図1)。ところが、

消費者庁「ゲームが取引(本体)であって、ゲームに顧客を誘引するガチャが景品(おまけ)であろう。」
ゲーム運営会社「これは異なことを申される。ゲームは無料で遊べますから取引(本体)とは言えませんな(キリッ)」

というやり取りを経て(推測)、消費者庁の「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」という認識を表したのが本年2月の日経報道だったのでしょう。

<再考 0518>
だがしかし。
消費者庁はもう一度よく考えてみました。何らかの理由で。何らかの理由で。大事なことなので二回言いました。

ガチャがダメならコンプガチャだ! とばかりに、コンプガチャを
1)有料のガチャ(シリーズA)
2)一定のカードが揃ったら特別カード取得(シリーズB)
という二つのプロセスに分解し、前者を取引(本体)、そして後者を景品(おまけ)とみなします。かつて「ゲームそのものは無料で遊べるから取引(本体)たり得ない」という反論があったせいか(推測)、消費者庁は、わざわざ「有料のガチャ」とした上でこれを取引(本体)としています(図2)。もはやゲームは無視。これじゃゲーム運営会社じゃなくてコンプガチャ運営会社になっちゃう。。。

図2

この新しい解釈の結果、コンプガチャだけがピンポイントで景表法に抵触することとされたのです。

<戦わずして?>
このロジックは議論の余地がないでもない気がする今日この頃ですが、既にゲーム会社は足並みを揃えて一斉に「コンプガチャ廃止」を表明済みであります。これにて一件落着、なんでしょうか。

なんとなく奥歯に物が挟まったようなエントリだな、と思った読者は読解力があります。ここから先は先日のエントリ「続 ソーシャルゲーム ガチャと景表法」を改めてご参照願う次第なのであります。


いつも通り、お気づきの点がありましたら優しくご教示をお願いします。

2012年5月11日金曜日

ソーシャルゲームと景表法 関連法令集

ソーシャルゲームのコンプガチャ騒動に関する景表法関連法令集。

・不当景品類及び不当表示防止法(景表法)

・景品類の価額の算定基準

・不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件(定義告示)

・景品類等の指定の告示の運用基準

・懸賞による景品類の提供に関する事項の制限(懸賞制限告示)
 → コンプガチャが5項(カード合わせ)に該当し、提供禁止
 → かつてのビックリマンチョコは3項によりレアカードの高級処理ができなくなった…

・「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準
 → 4項によりチョコボールの金・銀エンゼルはカード合わせに該当せず禁止されない

・一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限(総付け景品制限告示)
 → かつてのビックリマンチョコは当初こちらと認識していたらしい

・「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準

2012年5月10日木曜日

続 ソーシャルゲーム ガチャと景表法

5日のエントリ「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」の続き。

コンプガチャが景表法の絵合わせに該当し違法であるとの消費者庁の見解により、ソーシャルゲーム運営会社が相次いでコンプガチャの廃止を表明しています。最大手2社は「ただちに違法とは考えていないが」廃止と発表。

・2012年5月10日付 日経電子版「コンプガチャ全廃へ グリー・DeNA・サイバーなど」

<違法ではないけれど?>
今までコンプガチャで高収益をあげてきたわけだし、5月末まで継続するのだから「違法です」と認めるわけにはいきませんね。でもそれだけではありません。「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」で指摘したように、消費者庁は本年2月の時点でガチャ一般が景表法には抵触しないと表明しているのです。

<景表法>
今回焦点となっている不当景品規制について、一般的な規定の独占禁止法に対し景表法は対象を「取引に付随した景品類」に限定しています。
景表法2条3項
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
このように景表法の景品とは、顧客を誘引するために何らかの取引(言わば「本体」)に付随するもの(言わば「おまけ」)です。ソーシャルゲームについて、もしコンプガチャが景品=おまけなら、本体たる取引はなんだろう? ゲームそのものが本体というならコンプガチャはゲーム販売において「顧客を誘引」するおまけなんだろうか。むしろゲームの構成要素ではないだろうか。
このように、コンプガチャの取引付随性には疑問の余地がないでもないのです。ガチャ一般について消費者庁が本年2月時点で「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と考えたのも同じ理由でしょう。

ところで、違法でないと考える余地があるなら、なぜ争わずに収益性の高いコンプガチャを廃止するのでしょうか。「違法とは考えていない」のであれば、しかも上記の消費者庁見解があったことを考え合わせれば、消費者庁の正式なアクションを待って、それに対して上記のような論点について公の場で議論を重ねるべきでしょう。なぜ戦わずして白旗なのか。しかもみんなで。

ソーシャルゲームのガチャ一般についての法的論点は、景表法、賭博罪(刑法185条)およびそれに関連して風営法があります。
【景表法=みくる】、【賭博罪=有希 & 風営法=ハルヒ】
といった感じでしょうか。本件での戦闘力の例えとして。え、わからない? じゃわかりやすく。
【景表法=真尋】、【賭博罪=クー子 & 風営法=ニャル子】
そう、もし戦えば目の前の景表法=真尋を倒すことはできても、後から出てくるクー子とニャル子によって自らの存在を否定されてしまうことは確実なわけです。だったら戦わずして白旗ですね。

<超局地戦>
「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」ってすごくピンポイントの局地戦です。攻める方も守る方も。攻める方にとってこの戦術を意味づける戦略は、賭博罪&風営法という最終兵器を使わずに勝つということなのでしょう。戦略は目的を達成するためのもの、とクラウゼヴィッツは言います。ではこの戦略の目的はなんでしょうか。それはたぶん
ソーシャルゲーム業界が持続的に成長できるような自己規制を導入すること。
まとめると、ソーシャルゲーム業界の持続可能な成長のために自己規制を導入する(してもらう)という目的があり、それを実現するための戦略として強力(過ぎる)賭博罪&風営法を後方配置した上で、極めてピンポイントな個別戦闘すなわち「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」が戦術として設定された。

誤解を恐れずに言えば、「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」は一つのパーツに過ぎず、消費者庁も多くのプレイヤーの一人に過ぎなかったのかもしれません。少なくとも今回は消費者庁の強権とか新興産業つぶしという批判はあたらない気がします。
いずれにせよソーシャルゲーム業界には、これからが本当の正念場ということになりそうです。この見方が正しければ、自主規制対象はコンプガチャだけではありませんし、いつでもクー子&ニャル子(最終兵器)発動があり得るのです。目的が達成されるまでは。

<リークと決算発表>
連休明けの5月8日、9日にソーシャルゲーム運営会社大手の決算が発表されました。
【もし】5月5日のリークがなかったら
この決算発表で公表する業績の将来見通しはどうなったでしょう。自分がゲーム運営会社の当事者だったら困ってしまいます。なぜなら通常通り、今までの業績推移をリニアに伸ばして成長を見込んで発表してしまったら、その後で規制が入ったときに株価は暴落し、投資家は「なぜ規制導入が不可避だったのに高成長を公表したのか」と言うでしょうし、会社及び経営陣は業績予想開示の法的責任を問われる可能性があります。
かと言って何も決定的な事実がないのに、規制を見込んで業績予想を低めにしました、とも説明しづらい。何をどれだけ禁止されるか/自主的に控えるかは決まっていないわけですから、業績予想を見込みようがないわけです。

なので、決算発表前に消費者庁の意向として景表法違反がリークされたことは、ゲーム運営会社にとっても「消費者庁がああ言っているのでコンプガチャ止めます」、「業績予想は出せませぬ」、「細かいことはこれから」と言えるかっこうの理由になったわけです。また連休中だったことで消費者庁もゲーム運営会社も直接の対応に追われることなく、そのショックがマーケットに織り込まれる時間が十分に確保されたました。ということで、連休中のリークは攻守双方にとって最後のチャンスだったという見方もあるかもしれませんね。


お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。

<参考文献>
白石忠志『独占禁止法』有斐閣,2009
谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』他 角川書店
逢空万太『這いよれ!ニャル子さん』ソフトバンククリエイティブ

2012年5月5日土曜日

ソーシャルゲーム ガチャと景表法

<景表法違反?>
5月5日付 読売新聞朝刊が、消費者庁がソーシャルゲームのコンプリート・ガチャ(以下「コンプガチャ」)を景表法違反と判断したと報道している。もっとも5日お昼現在でもネット版の記事はなく、他社の追随報道も見当たらず(※)、連休中に新たな事実や判断が発生するものか、という疑問点も指摘されているが、いずれにせよ大きな反響を呼んでいることは間違いなく、2月に書いた当ブログのソーシャルゲーム・シリーズも改めてアクセスが増加している。
当ブログが、最近ソーシャルゲーム・シリーズはアップデートしていない、しかもこれらのエントリは今日問題になっている景表法への言及が少ない、という二点において検索経由で来ていただいた訪問者を落胆させていることは間違いなく、まったくもって日本人である筆者は訪問者の舌打ちが聞こえる気がして恐縮至極である。

この状況を打開するため、かつ一方でゴールデンウィーク中で網羅的に調べモノをする余裕がない、さらに過去エントリの内容を忘れつつある、という制約の範疇で、簡単に概況を要約しておきたい。

そもそもコンプガチャ問題の法的論点は、以下の通り。

1) 景品表示法(「景表法」)
2) 賭博罪(刑法185条)
3) 風俗営業法

当ブログのエントリを含め世の中で景表法よりも賭博罪での議論が盛り上がったのは、消費者庁自らが「ガチャは景表法の問題ではありません」と宣言した(と伝えられている)からである。
2月16日に消費者庁で開かれた「インターネット消費者取引連絡会」の会合で、参加者が「ガチャに景品表示法違反の可能性がある」などと指摘している。だが、消費者庁表示対策課は「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と特に問題視はしていない。(2012年2月25日付 日経電子版「行き過ぎたソーシャルゲーム」)
ゲームの中で行われるゲームの構成要素としてのガチャは景品ではない、と言われれば「まぁ、それはそうですなぁ」となるので、この時点で消費者庁の理屈は通っていたと言える。
というわけで、その後は賭博罪、それに付随して風俗営業法の適用が議論されてきたのである。

<回帰?>
ではなぜ、今。改めて景表法に話が戻ってきたのか。
筆者の推測では、このまま賭博罪と風俗営業法のロジックで詰めていくと被害が大きすぎる、と規制する側とされる側が合意したのだろう。賭博罪と風俗営業法は、国内のある一地方での不穏な動きを押さえるのに核兵器を使うようなもの。先人の知恵を借りれば「牛刀をもって鶏を割く」だ。なので、ひとまず当事者全員にとって受け入れられる現実的なところを目指しましょう、と。

となると、細かいことが気になる筆者としては「コンプガチャは景品ではなかっただろうに」と突っ込みたくもなるのだが、この点は、「いや、よく考えてみたらコンプガチャによってゲームの売上げが上がるんだから、顧客の誘引でしたな」という考え方もある、、、んだろう。

さらにもう一つ。
景品の定義は「経済上の利益」(景表法第2条3項)。
だから、コンプガチャを景表法上の景品と見なすということは、コンプガチャ(で得られるカード)が経済的価値を持つと公式に認めることになる。となると、仮に景表法上の「絵合わせ」問題をクリアしても、賭博罪と風俗営業法等の問題は引き続き残り得る、ということだ。逆に言えば、そちらを避けるには景表法でしっかりと対応してこの議論を収束させる必要がある。

one more thing.(しつこい?)
ソーシャルゲームでユーザが支払う、あるいはユーザ間でやりとりする対象はあくまでデジタルデータである。景表法であれ、賭博罪&風俗営業法であれ、モノではなくデジタルデータについて適用するには深い谷が横たわっている。それでもその谷を跳ばねばならぬなら景表法の「絵合わせ」の方が何かと何だ、という関係者の判断なのだろう。

冒頭で書いたように、景表法違反の取り扱いは未だ確認されておらず、実際には異なる結論になるかもしれない。しかし、もし今朝の報道の通りだとしても、それはそれで現実的な当面の(あくまで当面の)落としどころとしては悪くないのではないか、などと考える子供の日なのでありました。

いつも通り、お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。


※5月5日の夕方に毎日新聞ウェブ版(毎日.jp)記事掲載。
「携帯電話ゲーム:コンプガチャ 景品表示法抵触の可能性」
※5月5日21時頃、日経電子版にも記事掲載
「コンプガチャ、アイテム商法は違法 消費者庁」

※5月7日 定義方法が分かりづらいため、ガチャとコンプガチャの表記を本文中で区別

2012年4月26日木曜日

続 ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)

前回のエントリ「ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)」で、住生活グループのストックオプション開示について考えたわけですが、なんと同社は発行中止を発表した同じ17日に改めて同内容で発行決議を取り直し開示しておりました。
ストックオプション発行決議 → 中止の可能性開示 → 中止決議 → 発行決議、と足掛け二日間のうちに激しく揺れ動いた舞台裏の関係者皆様の苦労は察するに余りありありです。

前回のエントリでは有価証券届出書の提出失念の可能性を推測したわけですが、このように翌日に発行決議を行い有価証券届出書をキチンと提出しているところをみると、有価証券届出書は準備できていたと考えるほうが自然です。関係者の皆様にはお詫び申し上げます。

じゃあ原因は?
懲りずに考えましょう。

臨時報告書と有価証券届出書ができていたのであれば、考えられるのは不測の事態により、
提出が間に合わなかった!
しかし、間に合わなかったなら日付その他所要の修正を施して翌日に何食わぬ顔をして提出すれば良いはず。前回エントリにも書いたように臨時報告書は「遅滞なく」提出すれば良いわけですし、有価証券届出書については提出が遅れた分だけ効力発生日が遅れるだけで、本件では一日くらい遅れても問題なかったはずであります。
となると、やはり取締役会決議と臨時報告書 and/or 有価証券届出書提出が同日でないと具合がよろしくない理由が他にあったのでしょう。

それは、ストックオプションという新株予約権発行の開示が有価証券の勧誘に当る、という懸念かもしれません。有価証券取得の勧誘には有価証券届出書の提出が必要です。
 取締役会決議(ストックオプション発行) → 開示 → 有価証券届出書提出
というロジスティクスでは、厳密には有価証券届出書の提出前に取得勧誘(とみなされるかもしれない)開示が先行しますが、まぁ同日中に有価証券届出書を提出することによって同日中の前後関係は不問に付される、というオトナな社会通念なのかも。
だが、有価証券届出書が翌日の提出となってしまうと開示と有価証券届出書提出の日付がずれてしまい、金融商品取引法違反に問われる(かもしれない)!

この事態を打開するため、いったん16日の決議を取消し改めて17日に決議し直した上で細心の注意を払って有価証券届出書提出と開示を同日に行う、と(また失敗したら、、、という担当者のプレッシャーはいかほどであったでしょうか)。中止の開示と再発行の開示にタイムラグがあったのは、有価証券届出書の無事提出を見届けてから再発行を開示したのかもしれませんね。
というわけで、
  • 4月16日に発行を決議し開示した後、予定していた有価証券届出書提出を何らかの理由で完遂できなかった
  • 既に行ってしまった開示と有価証券届出書提出の日付がずれることは許されない
というのが今回の騒動の原因と思料するものであります(あくまで推測)。


お気づきの点がありましたら、いつものように優しくご教示願います。

2012年4月17日火曜日

ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)

※2012年4月23日 追記
なんと、発行中止を発表した同じ17日に改めて同内容で発行決議を取り直していました。
2012年4月17日付 ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ
深まる謎に続編エントリで挑む!

---以下原文---

住生活グループ(5938)のストックオプション開示、怒涛の三連発。

2012年4月16日付 ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ
2012年4月16日付 ストックオプション(新株予約権)の発行中止の可能性に関するお知らせ
2012年4月17日付 ストックオプション(新株予約権)の発行中止に関するお知らせ

いったい一晩の間に何が起こったのか、ことの次第を推測してみましょう。

「発行中止」開示によれば中止の理由は、
当社事務手続き上の不備により、関東財務局に提出すべき平成24 年4 月16 日付け有価証券届出書及び臨時報告書を提出することが出来なかった
とのこと。
臨時報告書は、当該ストックオプションの発行価額と行使価額の合計額の総額が1億円を超える場合に、取締役会決議があった際に提出が必要となる(金融商品取引法24条の5第4項、開示府令19条2項2号)。提出のタイミングは「遅滞なく」なので、取締役会決議があった当日の16日に間に合わなかったなら翌日に作成提出すれば良いですね。したがって臨時報告書は本件中止の決定的理由ではありません。

問題は有価証券届出書か。
ストックオプション発行は有価証券の募集に該当し、原則として有価証券届出書の提出が必要(金商法2条3項1号)。
 付与対象者が50名未満であれば例外扱いもあるのですが、「発行」開示によれば本件付与対象者は128であり50人を超えていますね。また、付与対象者が当該会社と完全子会社の役職員に限定されている場合も例外扱いですが(金商法4条1項1号、金商法施行令2条の12)、「発行」開示によれば割当対象者には、
(※2)本邦以外の地域において取得の申込みの勧誘がなされる新株予約権の割当ての対象となる者が11名含まれており、当該割当対象者に対する割当新株予約権数は2,500個であります。
だそうで、ここに完全子会社所属ではない役職員が含まれていたと思われます。

だとすれば有価証券届出書を急いで作成提出すれば良い、、、のですが。
有価証券届出書はほぼ有価証券報告書と同等の内容。作るのはタイヘンであります。さらに住生活グループは3月決算のようですから、関連部門はまさに決算作業の真っ最中。これから5月前半に決算役員会で決算承認、同日決算短信開示、それから有価証券報告書を作成して6月総会後にこれを提出、と怒涛のスケジュールですから、
「えーと、忘れてたんで有価証券届出書の作成提出よろ!」
なんて明るく言える状況じゃないわけですね。
そもそも有価証券届出書の効力発生は提出から15日経過後なので、本件5月9日の発行に間に合わせるためには4月23日までに作成提出しなきゃ、、、ってムリムリ。決算閉まってないし。

ということで本件ストックオプション付与中止は、
  • 付与対象者が50名を超え、
  • 完全子会社ではない会社の役職員を含み、
  • 有価証券届出書の例外規定に該当せず、提出が必要なことを失念し、
  • 気づいたものの、付与日に間に合うよう有価証券届出書を作成できない社内状況
という複合要因により引き起こされたものと思料するのであります(あくまで推測)。


お気づきの点がありましたらいつものように優しくご教示願います。

2012年4月1日日曜日

『3月のライオン』を山岸俊男で科学する

『3月のライオン』7巻。ヒナへのイジメ問題。ネタバレなので要注意なのです。

「微細な初期値の差異が非常に大きな結果の違いをもたらす」

ここで、南洋のチョウの羽ばたきが生じさせた空気のわずかな動きが、回り回って台風となって日本上陸! みたいな例に筆者の心はときめきません。なぜなら「その」気まぐれな羽ばたきがあってもなくても、いずれにせよ毎年ほぼ決まった数の台風が発生し、そのうちいくつかは夏から秋にかけて日本にやって来るからです。

でも山岸俊男『「しがらみ」を科学する』で展開している「イジメの螺旋」プロセスは似て非なる魅力を放っています。
これは「同じクラスでも、イジメ排除に参加する人数という初期値の違いによって、イジメが発生するか否かという大きな結果の違いをもたらす」というもの。

例えばあるクラスに自分一人でもイジメを阻止するという硬骨漢もいれば、他に14人いれば参加するという生徒も、あるいは絶対自分は関与しないという生徒もいる。このクラスでイジメが発生し、たまたま14人がイジメ阻止に参加表明。これが初期値。このとき参加表明者に含まれる、他に14人いれば参加というパラメータを持つ生徒2人にとっては自分達以外は12人なので、参加者数ががしきい値を超えておらず、「やっぱりヤメますの」となる。他に12人の参加者が必要であった次の生徒にとっても他の参加者が11となってしまい、やはり「ワタシもやっぱりヤメますの」となって、、、結局イジメ阻止参加者はなし崩し的に一人になってしまう。この一人は「自分一人でもイジメに立ち向かう」硬骨漢ですね。で、多くの場合この硬骨漢もイジメの対象になってしまう。これが下向き螺旋プロセス。

まさに『3月のライオン』6巻までのヒナじゃありませんか。

下向き螺旋プロセスとは逆にイジメ阻止参加者初期値が15人だと、なし崩し的に参加者が増えていき、ほぼ全員がイジメ阻止に参加することになり結果としてイジメはなくなる。これが上向き螺旋プロセス。詳しく知りたい方は下記参考文献で学習してください。
もちろん、ひとたび下向き螺旋プロセスが進行し終わった状態で孤立するヒナの味方をする生徒がいきなり14人増えることはありませんね。羽海野チカ先生はそれほど甘くありません。

実は山岸俊男『心でっかちな日本人』のほうに同じ螺旋プロセスの説明があり、こちらではもう一つ重要なファクターの説明があります。先生です。
本当にイジメをなくす心意気がある先生(『心でっかちな日本人』では「熱血先生」)だと生徒が信用すれば、この先生はイジメ阻止参加者数の生徒何人分にも相当します。要はクラスの生徒がイジメ阻止に参加しても自分は不利益を被らない、と信用できるかどうかなのです。

『3月のライオン』7巻。
ヒナのクラスの担任が倒れたことによって学校側が問題を看過できなくなり、代わりに新担任を送り込んでくる。クラスの生徒達は学校側と新担任が本気であることを認識し、イジメ阻止参加者が加速度的に増えていき、最終的にイジメは解消。もちろん加害者と被害者で大団円、と簡単にはいかないのが現実の厳しさ。Gメン75的とでも言いましょうか(古い?)

さて、今日のインプリケーション。
集団における問題は「思いやりが希薄になった」というような心の問題ではなく、行動原理とインセンティブの組み合わせの問題である。
でもって、この問題意識というかフレームワークは日本的経営に適用され、ひいてはコーポレート・ガバナンスや会社法制に対する重要な視座と論点を提供する予定なのであります(あくまで予定)。


<参考文献>
羽海野チカ『3月のライオン』1〜7巻、白泉社
山岸俊男『「しがらみ」を科学する』筑摩書房、2011
山岸俊男『心でっかちな日本人』筑摩書房、2010 (オリジナルは日本経済新聞社、2002)

2012年3月9日金曜日

ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座

ガチャが賭博にあたるのではないかという疑念が世の中でだいぶ高まってきたようだ。例えば下記のブログエントリは最新の新聞記事とブログ記事を参照しており、まとめとして優れている。

もと切込隊長ことやまもといちろう氏のブログ
「ソーシャルゲーム(オンラインゲーム)のガチャがRMTと併せ技で賭博法に抵触の可能性について(追記あり)」

一方で、ガチャとRMT(Real Money Trade;要するに換金)の関連は必ずしも明確ではなく、もう少し厳密な検討が必要だろう。

以前のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察」でも指摘したように、賭博は違法であり、射幸心を煽ってはいけないけれど、風俗営業法の規制内でなら少しばかり強めの刺激も認めてあげる、というのがパチンコ/パチスロだ。
ソーシャルゲームのガチャはRMTによって換金が可能ゆえパチンコ/パチスロの三店方式のアナロジーでこれを問題視するなら、必然的にソーシャルゲームのガチャを風俗営業法の規制下におくべし、と主張することになろう。ソーシャルゲームは多少のギャンブル性を認めてもらう代わりにパチンコ店と同様に立地、営業時間、年齢制限、営業方法もろもろの規制に服することになる。

しかし。それはゲーム運営者、プレイヤー、警察方面の方々(規制者)の誰もが幸せにならない未来ではないのだろうか。
(規制者には新たな権益が入ると言う見方もあるでしょうが、規制者側ではたぶんパチンコ/パチスロに議論と関心を飛び火させるなという懸念の方が大きいのでは、などと背伸びして大人な妄想をしたり)
そもそも、換金と賭博罪について若干の誤解があるのかもしれない。

賭博は違法。「ただし、一時の娯楽に供するものを賭けたにとどまる」場合はOK、と刑法185条は定めている。一時の娯楽に供するものとは、ちょっとした飲み物、食事程度を指す。ちなみに金銭そのものは一時の娯楽に供するものではないという判例があるので金額の大小に関わらず違法。なので、一時の娯楽に供するものを超える(まあ、高額なものと言って良いだろう)【モノ】も賭けたらダメなのである。
「金銭はダメでモノなら良い」は誤解。「アイテムをRMTで換金した途端に違法になる」も誤解。

ネットオークションという広く開かれた市場で取引されている値段はそのアイテムの客観的な時価を表すと考えられる。この客観性は価格の指標性、アクセス及び取引の容易さ、高い流動性を含む。ネットオークションにおいて一定の頻度で、数万円、場合によっては10万円を超す値段で取引されていれば、そのアイテムはどう考えても「一時の娯楽に供するもの」とは言えないだろう。

もう一つ、ガチャでゲーム運営会社の収益が数億円、数十億円単位で大きく向上する/したと仮定すると、そのこと自体が「一時の娯楽に供する」モノを賭けているとは言えず、まさに射幸心を煽っている状況だ。

もっとも、この点についてはゲーム運営側に反論の余地がある。ガチャのプレイ実績数(登録ユーザ数ではありませぬ)とガチャの合計収益を開示すれば良い。「多くのプレイヤーと少額な収益」でそれほど一人当たり多額のカネが動いていないなら杞憂でした、となるし、逆に(以下略)。

三店方式のアナロジーにこだわらず、1)客観的に高額と評価されるアイテムを得ようと2)多額の金銭が動いている点にフォーカスした方がシンプルな分、議論として強い気がするし、トレーディング・カードに比べてこっちの問題が際立つとも言えよう(トレーディング・カードの実情は良く知らないのですけれど)。
【今日の教訓】
RMTが直接的に問題なのではない。客観的に高額なアイテムを射幸心を煽る方法で提供することが問題。
いつも通り、考えながら調べながらの思考実験ですので、ご意見や情報がありましたら優しくご教示いただけますと幸いです。これまでも多くのフィードバックをいただき感謝です。

「木綿のハンカチーフ」(椎名林檎版)を聴きながら

2012年3月6日火曜日

年功序列と比較優位(その1)

年功序列。
言わずと知れた日本的経営の要諦で、勤続が長くなるほどに偉くなって給料が上がる仕組み。

典型的には、主任、係長、課長、次長、部長と上がっていき、さらに会社によってはこれらに代理や代行が組み合わされたり、「総務部長」と「総務部 部長」の使い分けがあったりと、外部から(いや内部でも)序列を正確に把握するのはなかなか簡単ではない。
いずれにせよ、これらの役職階段を一段一段上がっていくことは一般的に部下が増えることを意味している。要するに人事管理としてのマネジメント負担が昇進に比例して増大していくわけだ。

すると、一つ疑問が生じる。
「自分は職人で手を動かすのが好きだし、得意だ。人事管理なぞに煩わされたくない。」というエクスパート(専門職)な方々はどうなるのか。比較優位理論によれば、エクスパートはエクスパートに専念した方が会社にとっても日本全体にとってもプラスである。

この対応の一つが、先ほど挙げたように役職を巧妙に使い分けて「部下を持たない」管理職を作ることであり、またオモテの役職とは別にウラの資格で管理する制度である。
ここだけの話、これらはエクスパートのためというよりは、組織内の昇進レースの敗者を優しく包み込む役割の方が大きかったりするのだが、そういうことを公の場で論じてはいけない。
そんなことであれば、堂々とエクスパート制度を作れば良いではないか、と考えるのが自然な流れ。実際、筆者もかつてそう考えて試案を作ったのだ。
いわゆる一般コースでは役職が上がるにつれ給与に占める人事マネジメント相当分が増えていくように、エクスパート・コースでは何らかの業務を人並み以上にこなし(仮に特化業務と呼ぶ)、それが給与の増分を説明する。diversity(多様性)ですからね、これからは!

ところが。
筆者のエクスパート・コース試案は日の目を見ることはなかった。社内で支持を得られなかったのである。しかも意外なことにネガティブなのが経営者サイドよりも、むしろ現場に近い層だった。曰く、

「複数のコースがあるとキャリアプランが混乱し、部下を指導しにくい」
「エクスパートを誰が管理/評価するのか」
「仕事には人事マネジメントの経験と視点が必要である」
「結局、エクスパート・コースは言い訳に使われてしまい、ワークしない」

ハイハイ、皆さんがネガティブなのはわかりました。見送りですね。
どれ一つとっても決定的な理由にはなっていない気がするけれど、とにかく抵抗感は伝わってくる。筆者が思うに、要は、
「みな同じ前提で働くべし」
なんですね。この場合は「全員が同じ人事制度に乗っていなきゃ、やりにくい」と。少なくとも同じ部署や本部の中では。

長くなったので続く(かも)。

2012年2月27日月曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金と会計基準

前回のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その3)」(以下「その3」)で取り上げた課金アイテムを引き続き検討。
(しつこくてすいません、あくまで私的な備忘録ですからっ!)

平成21年7月9日付 日本公認会計士協会 会計制度委員会研究報告第13号 「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」 ケース41はオンライン・ゲーム内におけるポイントの販売収益を取り上げている。ここでいうポイントはアイテム(カードを含む)を買うためのゲーム内通貨(コイン)も含んでいるので、ここではコインと表記する。

中間報告によれば、ソーシャルゲームにおける課金アイテム販売は役務の提供に分類されている。物品販売のような売り切りでなく、ネットワーク上でユーザにアイテムを利用させる継続的な役務ということであろう。
なるほど「その3」における業界側の主張とも密かに合致しているではないか。ならばその会計基準に従って考えてみよう。

コイン購入を経由した有料アイテムの購入は以下のように分解できる。

(ゲーム提供者から見て)
1) コインの販売
2) コインとの引き換えによるアイテム販売
3) ユーザによるアイテム利用開始
4) ユーザによるアイテム利用終了

中間報告によれば、役務の提供が終了するのは4)ユーザによるアイテム利用が終了したときである。

<返品権再論>
ここで経済産業省準則を再掲。
特定商取引法上の返品権が認められるのは「商品」及び「指定権利」の返品であり、役務提供契約については認められていない。これは、役務は一般的には返品が考えられないため (経済産業省 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」 )
役務の提供が終了した後での返品になじまない、ということで特定商取引法上の役務には返品権が認められない。だが、ソーシャルゲームのコインはアイテムの利用権引換権であって、英会話教室のチケットみたいなものだ。さらにコインとアイテムを交換した後でもユーザが当該アイテムを利用し終えるまでは役務の提供が完了していない。
特にユーザの投じた金額が大きい場合には、返品もしくは契約解除について慎重な検討が必要だろう。

<債務不履行>
このように、ソーシャルゲームのコイン及び購入された課金アイテムは、ともにゲーム提供者による役務の提供が終わっておらず、この状態で一方的にユーザのコインやアイテムが利用できないような事態が生じれば、ゲーム提供者の債務不履行である。
もちろん物事には重要性の原則があるわけで、僅少な金額なら「規約承認という事前の合意があった」と言えるだろうが、例えばユーザが数万円を投じて得たアイテムについてゲーム提供者が、規約を盾に自らの債務を履行せずユーザが支払った対価を手中に収めることは正当化できるのだろうか?

<implication>
わかりにくいので少し解説。
課金アイテム購入という取引の性質について、まず単発の物品販売か、継続的な役務の提供かという分類がある。ゲーム提供者側としては、
a)販売後もゲーム管理のため(例えば利用停止等)物品売切りではなくユーザに対して権利を留保したいし、
b)返品に係る規制回避のためにも継続的役務の提供と解釈したいだろう。
これは、「その3」で指摘したように運営側による「利用許諾(役務提供)」という主張と整合的だ。そして本エントリで見てきたように会計的にも課金アイテム販売は、役務の提供と位置づけられており、ゲーム提供者の考えと一致している。
このように継続的役務提供説に立つと、役務提供の終了時期はユーザがアイテムを利用し終わったときになる。そうであればゲーム提供者は、
a')ユーザがアイテムを利用し終わるまでユーザに対して管理のための権利を持つだけではなく、本旨に従ってユーザにアイテムを最後まで利用させる債務を負担しており、
b')さらに役務提供が終了していないのに前払金を預る場合(特に金額が大きい場合)の一般的な消費者保護問題も検討する必要があろう。

<付記>
あずさ監査法人による(中間報告)の解説
「業種別収益認識基準の考察 第3回 ゲーム・オンラインビジネス等」 AZ Insight volume 39, 2010 May

※ 2012年2月28日 <implication> 追記

2012年2月22日水曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その3)

注目を集めているトピックを扱ったせいか、当シリーズは多くの方にご訪問いただき小心者の筆者は恐縮している一方で、せっかくなので2月6日のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制の予備的考察」(以下「予備的考察」)について、少し補足をしておきたい。

<風俗営業法と賭博>
「予備的考察」で、ガチャ等が射幸心を煽るのであれば風俗営業法の適用も視野に、と書いた。
これは一見すると新たな規制をソーシャルゲーム(のガチャ)に課すように思われるかもしれないが、真意はそこではない。

繰り返すが我が国で賭博は違法。射幸心を煽ってはいけないのである。射幸心を煽ってはいけないんだけど、まぁある程度以下ならね、ということで風俗営業法の規制の範囲内であれば営業が認めれられている。要するに、パチンコやパチスロは風俗営業法に従うことによって賭博罪の適用を回避しているわけだ。ちなみに宝くじや競馬等の公営ギャンブルはすべて特別法を根拠法に持つことで合法化されている。

では、風俗営業法の適用外で射幸心を煽ってしまったらどうなるか? もちろん違法である。賭博を行った者も、賭博サービスを提供した方も罪に問われる。ということは、風俗営業法(または特別法)の適用がないソーシャルゲームのガチャが【仮に】射幸心を煽る、即ち賭博とみなされた場合には。。。以下省略(小心者につき)。

なので射幸心を煽る恐れがあるとすれば、風俗営業法等の規制に従う方がむしろ業界とユーザのため、という考え方もあろう。

<課金アイテムと返品>
「予備的考察」で課金アイテムの購入は通信販売の返品にかかる規制が適用されると指摘した。これも話せば長いテクニカルな論点を含むお話。
特定商取引法上の返品権が認められるのは「商品」及び「指定権利」の返品であり、役務提供契約については認められていない。これは、役務は一般的には返品が考えられないため (経済産業省 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」 ,以下「準則」)
要するに「役務」には返品に関する同法上の規定が適用されない。ではソーシャルゲームの課金アイテムは「商品」か「指定権利」か「役務」か。

前回も取り上げた、消費者庁インターネット消費者取引連絡会第4回会合の資料に、
オンラインゲームの利用規約によっては、ユーザはゲーム内のアイテム等について”利用権”を有するのみで、”所有権”等の権利を有していない、利用資格を喪失場合は未使用分のコインは消滅する、当社が受領した料金等の払い戻しは一切行わない、と記載されていることもある(資料2-1「オンラインゲームによる相談事例」)
との記述がある。課金アイテムは”利用権”なんだから「商品」か「指定権利」に該当するもので、少なくとも「役務」ではなさそう。そうであれば返品に係る規制が適用される。

ところで同じインターネット消費者取引連絡会第4回会合の資料には気になる記載がある。ゲーム上の財産(アイテムや通貨)について、
※運営側の見解では、「財ではなく運営会社が所有するデータの使用許諾(役務提供)に過ぎない」(資料1「オンラインゲームの消費者トラブルについて」)
という。
ん? 使用許諾(役務提供)? ゲーム運営会社が許諾してプレイヤーが使用するのに「役務提供」って不自然では? 役務提供というのはこのコンテキストでは通常ゲーム運営会社が何らかの行為を行うことであって、ユーザがアイテム使用という行為を行う場合には当てはまらない気がする。
そしてこの何気ない記載が、
ソーシャルゲームにおける課金アイテム購入は「役務」の提供ですから返品規定は適用されませんよ!
というゲーム運営会社の周到な布石なのかもしれないと疑ってしまう自分はもう大人になり過ぎてしまったのかもしれないという自己批判とそんな布石を論破する思考実験との間で揺れ動く今日この頃なのであります。


<disclaimer>
いつもどおり考えながら調べながらの予備的メモですので、お気づきの点等がありましたら優しくご教示いただきますようお願いします。

2012年2月16日木曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その2)

2月6日のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察」の続き。

本日16日、消費者庁のインターネット消費者取引連絡会の第4回会合が行われた。アジェンダと資料は消費者庁ホームページで公開されており、以下の通り。
  • 議事次第
  • 資料1 オンラインゲームの消費者トラブルについて
  • 資料2-1 オンラインゲームに関する相談事例
  • 資料2-2 特別相談「インターネット取引トラブル110番」の実施結果について
  • 資料3 事業概要および消費者対応に関する取組み
  • 資料4 DeNAのサービス概要と消費者対応について
  • 資料5 オンラインゲーム消費者トラブルの法律問題
  • 資料6 第3回インターネット消費者取引連絡会議事要旨
資料1「オンラインゲームの消費者トラブルについて」は一般社団法人ECネットワークがまとめたもので、p3「トラブル事例パターンと論点」でアイテム販売やガチャ課金方法について、論点として景品表示法違反の可能性と賭博該当性??(原文ママ)が挙げられている。
ここまでは実は昨年12月に行われた第3回会合の資料でも同様の記載があり目新しいものではなく、前回エントリで書いたとおり消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」は、景品表示法の観点からはアイテム課金規制に対しては及び腰だし、ガチャは言及すらしていない。

今回はトラブル事例として未成年の高額課金が追加され、さらに資料5「オンラインゲーム消費者トラブルの法律問題」で森亮二弁護士(英知法律事務所)がいくつかの論点について法的検討を行っている。資料5 p5「オンラインゲームと賭博」では、
近時、現実のパチンコ店におけるパチンコ、パチスロ等とまったく同じ仕様のオンラインのパチンコ、パチスロ等が出てきている。
とした上で、
オンラインのパチンコやゲームが急速に普及する状況下で、風適法(注1)の適用がない、オンラインのパチンコやゲームについての何らかのルール策定を検討する必要があるのではないか。
と規制の必要性を指摘している。これはガチャよりもネット上のパチンコ/パチスロを念頭に置いているようだ。今月、携帯賭博サイトが摘発されていることと関連があるのかもしれない。

せっかくなので、消費者庁及び関係者におかれましては当ブログをご一読いただき、ガチャも同様に賭博罪及び風俗営業法の観点で検討すると同時に、特定商取引法の兼ね合いも併せて検討して経過と結論を公表して欲しいものであります。


 (注1) 風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律。当ブログでは風俗営業法と表記

2012年2月12日日曜日

子育てとコーポレート・ガバナンス

突然ですが質問です。

「そんなんじゃ、皆に笑われるよ」と子供に言ったことがありますか?
お子さんがいない方は、自分がそう言われて育てられましたか?

筆者には小さな子供が二人いて、振り返ってみるととときどき言っている。

昨年12月のエントリ「日本型コーポレート・ガバナンスの行方」と「「日本型コーポレート・ガバナンスの行方」の背景」で書いたように、日本社会は市場志向の努力が進められる一方で、いわゆる旧来の日本的関係志向が強固に残っており、私見では2005年前後からむしろ日本的関係志向への揺り戻しすら感じる。

開国、明治維新に始める欧米文明移植から第二次世界大戦敗戦でいったんリセット方向修正、戦後民主主義のもとで高度経済成長を謳歌した後の近代化総仕上げとして1990年代後半に行われた市場化=欧米化改革で日本はグローバル化を完了。のはずだったのだが。。。

筆者はもう40代なので、20代、30代のときのように誰かを悪者に仕立てた陰謀説や日本もうダメ=アメリカ万歳説に与するのではなく「なぜ、どのように日本的伝統的価値観が社会に保存されるのか」を考えるべく改めて日本社会についての本を読んでみた。
そのうちの一冊がルース・ベネディクト『菊と刀』(1946)。言わずと知れた日本人論の古典で、彼女は日本を訪れたことがなかったが、文化人類学観点からなされたその考察は単なる歴史的興味ではなく【現代の】日本人論としても通じる鋭い指摘が多い。

『菊と刀』は指摘する。
日本では「赤ん坊と老人とに最大の自由と我が儘とが許されている」。この指摘で誰を我が儘老人として想起するかは各自にお任せするとして、本題はここから。
(幼少時に親にからかわれた)「このような経験は、成人した日本人に顕著に認められる、嘲笑とつまはじきに対する恐怖心を培う肥沃な土壌となる」 
「年長者は子供に向かって、「これこれのことをすれば、世間の人の笑いものになる」と言い聞かせる。」
 「これらの規則は、自分の意志を、しだいに増大していく、隣人、家族、ならびに国家に対する義務に服従せしめることを要求する。」

要するに、
他人から笑われれば恥である。自分の恥は自分の属する組織の恥である。周りに迷惑をかければ仲間はずれという懲罰を被る。

こうやって見てみると、まさにムラ社会の掟である。そして子育てにおけるこの掟の伝承は、まさにある環境下での生存戦略伝授に他ならない。

子育て中の我々もまたそのプロセスのまっ只中にいる。そう、子供に「そんなんじゃ笑われるよ」と言って躾を行うことは、進んだ西洋文化に対置される時代遅れの(?)日本的関係志向社会の維持を無意識のうちに担っているということだ。
では我々は市場化を推進したい場合、悔い改めて教育方針をリセットすべきなのか? 子供に「笑われますよ」と言えばたちまち守旧派になってしまうのか?

恐らくそう簡単ではない。先ほど「ある環境下での生存戦略」と述べた通り、現状の日本でうまくやっていくためには、現状の日本に合わせた行動がまずは必要なのだから。

今日はここまで。

2012年2月6日月曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察

前回のエントリ「ステマ、サクラ規制に関する簡単な日米対比考察」に続いて、ソーシャルゲームにおけるアイテム課金といわゆるガチャについて考える。
<参考>
・2012年1月25日付 日経記事「ソーシャルゲームが抱える潜在リスク 「射幸心」あおる仕組みとは」(以下「日経記事」)
消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「留意事項)は、口コミだけでなく、無料ゲームのアイテム課金の問題もフリーミアム類型として取り上げており、景品表示法上では「無料で利用できるサービスの具体的内容・範囲を正確かつ明瞭に表示」すれば問題ないとしている。

うーむ、それはそうなんだが。。。またしても違和感を感じてしまう。

アイテム課金の問題はユーザの十分な自覚なしに後からゲームで数万円、数十万円の請求をされたり、その中に未成年が含まれている場合だろう。これは購入意思決定の問題。さらに「日経記事」でも指摘されているように、この消費者庁「留意事項」はガチャに触れていない。こちらは購入意思決定の問題に加えて射幸性の問題。

<購入の意思決定>
人間は心の生き物であるからして、どこで、どんな状況でその買い物を決めたか、というのはとても重要である。意思主義なのである。だから法はクーリングオフの制度を定め、自発的意思でじっくり考えたのではない購入、例えば販売業者が自宅に押しかけてきた場合や、街を歩いていてキレイなお姉さんに誘われるままに素敵な絵画を買ってしまった場合などには一定の期間内に解約できることになっている。

この考え方を適用すれば、多額の支出の自覚なしに遊んだ後で数万円数十万円の請求が届いたり、未成年(またはその親)が高額な支払いを余儀なくされる問題があるなら、「じっくり考えて自発的に意思決定した」というプロセスが必要であるし、そうでない場合、特にゲーム提供者側にその非がある場合にはクーリングオフの適用も考えられるだろう(もちろんクーリングオフを推奨するのではなく、購入者が冷静に考えるプロセスを用意すべきという趣旨であります)。

ところでソーシャルゲームの課金アイテムは通常返品キャンセルが不可であろう。だとすれば課金アイテム購入は通信販売に当るから、返品に関する定めは見やすい箇所に表示するだけでなく、購入申込画面にも記載しなければならない(特定商取引法第15条の2第1項、特定商取引法施行規則第9条第3項、通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン)。

要するに、課金アイテムを購入するたびに最終申込画面に明瞭に「キャンセル不可ですよ」と表示するか、さもなければ8日以内に返品可能だということになる。筆者は自分でこういったゲームを遊んだことがないので実際の表示がどうなってるかわかない。経験者の皆様よりご教示いただけると幸いであります。

<射幸性>
ガチャ。
スロットマシーンのようなもので結果により得られるアイテムの価値が大きく異なるなら、射幸心を煽ると考える余地は大きいだろう。そもそも高額な賞品を提供して射幸心を煽るのは賭博罪で違法(刑法第185条)。賞品が「一時の娯楽に供する」ならこの限りではないが、ガチャで得られた賞品がネットオークション等で数万円で取引されていたり、またその賞品欲しさにガチャで何万円も使ってしまうなら、ちょっと一時の娯楽に供するものというのは難しい気がする。

射幸心を煽る恐れがあるならパチンコやゲームセンターがそうであるように風俗営業法の適用も視野に入る(風俗営業法7号営業、8号営業)。仮にそうなるとこうしたゲームの提供には風俗営業法上の許可が必要になったり、未成年遊戯の可否、あるいは営業時間の制限等がかる。
もちろん現行風俗営業法は店舗営業が対象だけれど、法の趣旨に鑑みればネットへの対応も必要に応じて考慮する必要があろう。風俗営業法の目的の一つは「青少年の健全な育成」である。

さらに、ガチャもまたアイテム購入と考えれば、先に指摘した特定商取引法の返品に関する表示が必要。即ち、何回もチャレンジする場合には毎回表示される最終申込画面に「キャンセルできませんよ」という表示が明瞭に表示されることになる(そうでなければ事後でキャンセル可)。

<まとめ>
どうなんだろう? と思って自分で調べた備忘録を兼ねたpreliminaryな考察なので、ご指摘事項等ありましたらお知らせいただけるとうれしいです。突然の攻撃はご遠慮願います。羊のように小心者ですので。


<おまけ>
ネット先進国のお隣韓国では、ネット上のゲームに関する厳しい規制が導入されており、射幸性の強いゲームも禁止されていると聞く。ご存知の方がおられましたらご教示をお願いする次第であります。