2013年12月23日月曜日

OECD解雇規制国際比較をめぐる冒険

OECDの解雇規制国際比較レポートをめぐって「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」、いや逆にユルいからもっと規制強化すべき!というネット上の論争を見かけました。広い世の中、立場によって異なる主義主張があるのは当然として、公開されているレポート内容についてなんでこのような論争が起きるのか。
『「若者はかわいそう」論のウソ』(海老原嗣生,扶桑社,2010;ブクログ・レビューはこちら)で、OECDレポート(2006)が若者の貧困論をミスリードした、みんな自分で原典あたれという指摘を読んだばかりだったので、これは天啓とばかり少し自分で調べてみました。

OECD Employment Outlook 2013 (PDF)
この中の Chapter 2 Protecting jobs, enhancing flexibility: A new look at employment protection legislation が該当箇所のようですね。正社員の解雇規制に該当するのは、p.78のEmloyment protection for regular workers in 2013でしょう。ここを読めば、正社員(とりあえず regular worker を正社員とします;以下の議論は正社員について)の解雇規制には次の3つのカテゴリが設けられていることがわかります。

- Advance notice and severance pay (解雇の事前通知と解雇補償)
- Procedural inconvenience (解雇手続の煩雑さ)
- Difficulty of dismissal (解雇の困難さ)

ネットで見かけた本件議論の中には「解雇の困難さ」というサブカテゴリの存在を理解していないと思われるものが見受けられましたが、調べものは原典に当たらねばなりませんね(てへぺろ)。また、いつの情報のどこのデータを見たのか人それぞれであることもデータ解釈が収束しない一つの要因かもしれません。

このように最新のOECDレポートの「解雇の困難さ」サブカテゴリだけを見れば、OECD平均の2.3に対して日本は3.0で8番目に解雇しにくい国ということになります。ちなみにスウェーデンやお隣韓国が同点です。
一番とは言えないにしても、正社員を解雇しにくい国と報告されていることは間違いないようですね。この見方を裏付けるように、OECD東京センターが発表している「雇用アウトルック2013-日本に関する分析」には「雇用保護規制に係るOECDの調査によれば、日本では、正規労働者には不当解雇への十分な保護がある」との記述があります。


さて、OECDレポートをもう少し見ていきましょう。

CALCULATING SUMMARY INDICATORS OF EPL STRICTNESS: METHODOLOGY
この中のTable 2 Strictness of employment protection – individual and collective dismissals (regular workers), summary indicator weights の level 3 として「解雇の困難さ」は以下の構成要素から算出されます。

5. Definition of justified or unfair dismissal
6. Length of trial period
7. Compensation following unfair dismissal
8. Possibility of reinstatement following unfair dismissal
9. Maximum time to make a claim of unfair dismissal

誤訳御免で日本語にしてみると、
5. 適法または不当解雇の定義
6. 試用期間の長さ
7. 不当解雇の場合の補償
8. 不当解雇の場合の職場復帰可能性
9. 不当解雇を主張することができる期間

これらの各項目を0〜6で評価付けし、5項目の平均を取ったものが「解雇の困難さ」を表します。点数が6に近い方が解雇しにくく(従業員が保護されている)、0に近い方が解雇しやすい(従業員が保護されていない)ことになります。
上述のようにOECD平均は2.3、日本は3.0、最も解雇しやすいのはカナダとイギリスの1.0で逆に最も解雇しにくいのはフィンランドやフランス、メキシコの3.4となっています。

ところでこれらの5項目をよく見てみると、7から9は不当解雇された場合の事後救済であって、解雇の困難さそのものを表しているわけではないことに気付きます。適法に解雇された場合には関係ないわけですから。

解雇の難しさを決めるのは適法な解雇の範囲。

残る5. 適法または不当解雇の定義について、OECD Indicators of Employment Protectionページでエクセルで提供されているデータ( Employment protection in OECD and selected non-OECD countries in 2013 )を見てみると、日本は6点満点で2点となっており、比較的解雇規制が緩いとされています。いや適法解雇の範囲が狭い(解雇規制が厳しい)ことこそが日本の特徴と(解雇規制緩和派からは)主張されているわけでちょっと引っかかります。先ほどのCALCULATING SUMMARY INDICATORS OF EPL STRICTNESS: METHODOLOGYに戻って調べてみると日本は
when social considerations, age or job tenure must when possible influence the choice of which worker(s) to dismiss(どの従業員を解雇するかの選択に当って、本人への影響度合いや年齢、勤続年数等を可能な限り勘案しなければならない)
に該当すると判断されていまして、これは4段階のうち解雇しやすい方から2番目です。ではもう一段解雇しにくい(配点=4)と判断されるのは、
when a transfer and/or a retraining to adapt the worker to different work must be attempted prior to dismissal (解雇に先立って配置転換や配置転換のための再訓練が必要)
で、さらに最も解雇しにくい6点満点と評価されるのは、
when worker capability cannot be a ground for dismissal (従業員の能力は解雇の根拠となり得ない)
だそうです。
う〜ん、判例を考慮すれば4点、いや6点でもおかしくないと思うのですが。ちなみにこの項目が4点か6点のどちらであっても集計結果は3.4(同点一位)、3.8(単独一位)で栄えある「最も正社員を解雇しにくい国」の王座に就くことになります。


整理解雇と普通解雇が混同されているとの指摘があるかもしれませんが、国別解説における日本の説明では
Redundancy dismissals require business reasons for reducing the number of staff; efforts to avoid dismissal, reasonableness of selection criteria and procedures (余剰人員の整理は、人員削減の必要性、解雇回避の努力、解雇者選定の合理性と適正な解雇手続きを必要とする)

と記述されていますから、整理解雇の四要件は認識されているものの、運用実態が反映されていないという気がします。特に解雇回避の努力は十分に上記配点4に相当すると思うのですが。同じく国別解説のノルウェイの項では判例による解雇制限が加味されて5点という高得点が付与されている点も申し添えておきましょう。

さらに6の試用期間についても、通常の労働契約上の保護が適用されない期間として短い方が従業員にとって望ましいとされおり、一般的に3ヶ月とされる日本は4点と悪くない評価を得ております。しかしながら判例によって試用期間中と期間後でほぼ同等の解雇規制が適用されること、さらに言えば試用期間に入る前の新卒内定さえ一定の解雇規制に服すことを鑑みれば、従業員保護という観点からは試用期間をゼロ(配点=6)と評価しても間違いではないような気がしないでもありません。もしそうなれば、またもや日本は同点一位ながら「最も正社員を解雇しにくい国」の王座に就いてしまいます。

大企業と中小企業ではプラクティスが大きく異なる事実も反論として考えられますが、それはそれ、本件OECDレポートは法制度を中心に比較しているわけですから、条文と判例をもって判定すべきでしょう。
OECDはここらへんの判例含めて日本の実情を理解した上で判定していただいているのか、そこはかとなく疑問なしとしない、といったモヤモヤ感を残して今日はここまでとさせていただきます。

備忘メモを兼ねて書き連ねておりますので、お気づきの点やコメントあるいは誤訳がありましたら優しくお知らせくださればこれに勝る喜びはありません。

様々な主義主張の方もみんな一緒にメリークリスマス!

2012年9月4日火曜日

ドラクエ10のダイス賭博問題を考える

はぐれメタルを会心の一撃で倒すべくリムルダール周辺を彷徨し続けた日々。あれだけの時間と労力をまっとうなことに向けていれば自分は今頃、。。。いや後悔はありません。そのドラクエで賭博疑惑が持ち上がったとあっては黙ってはいられませんのです(10はまだ買っていませんけど)。

ことの発端は日経に掲載された新清士氏の記事。
2012年8月29日付 日経電子版「「ドラクエ10」揺るがす重大問題 基本機能を賭博に使うプレーヤー

ゲーム内でランダムに数値を返すダイス機能を使ってプレイヤー同士がゴールド(ゲーム内通貨)を賭けている行為が賭博または賭博場開帳図利(以下「賭博等」)に当り、ゲームを提供しているスクウェア・エニックス(「スクエニ」)もその幇助罪に該当し得るという指摘。
これに反応して同社株価が急落して騒動となり、ネット上でさまざまな意見や疑問が交錯した経緯と論点は同じ新氏によって以下にまとめられています(「「ドラゴンクエスト10」問題についての私的論点整理」)。

<スクエニは罪に問われる?>
スクエニ自身は賭博を行っておらず、ゴールドを販売しているわけでもありませんから賭博場開帳図利にも該当しません。これは同社プレスリリース(2012年8月30日付「「ドラゴンクエストX」に関する一部報道について」)で説明されている通り。可能性があるのは、プレイヤー同士が賭博等に該当した場合にこれを幇助した罪に問われるケースでしょう。幇助が成立する要件は、a)スクエニの幇助の行為と意思、b)正犯(プレイヤーの賭博等)です。

a)スクエニの幇助行為と意思
プレイヤーが賭場等をすることを知りそれを手助けする意図をもっての行為。違法行為が行われ得ることを認識しているだけでは幇助に当りません。例えばWinnyの著作権侵害幇助をめぐり最高裁は「入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って幇助に当る」(2011年12月20日)としています(*1,*2)。

これを当てはめればスクエニの幇助が問われるのはダイス機能が賭博に利用され得るという認識だけでは足りず、多くの人が賭博に使うだろうと認識した上でダイス機能を提供した場合ですね。

b)正犯(プレイヤーの賭博等)
それではプレイヤーが賭博罪に問われる要件を検討しましょう。
過去エントリ「ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座」で書いたように、「金銭または高額なモノ」を賭けてはいけません。一時の娯楽に供するもの(少額なモノ)ならokです。ではドラクエのゴールドはどうなんでしょう?

<アイテムの経済的価値>
今年前半、社会問題になったソーシャルゲームのコンプガチャは結果的に景表法「カード合わせ」に該当ということで規制されましたが、そのときに「「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準」が改正され、ネット接続型ゲームのアイテム等も「経済的価値を持つ」ことが明らかにされました。ただし、これは有料ガチャを繰り返して絵柄をそろえる行為を前提にしていますので(*3)、ドラクエのゴールドのようにゲーム内で無償で提供されている場合には議論の余地があります。
先に挙げた同社プレスリリース(2012年8月30日付「「ドラゴンクエストX」に関する一部報道について」)において、「「ドラゴンクエストX」におけるゲーム内アイテム、ゲーム内通貨は無償で提供されているものであります。」とあるのはこの点を意識していると思われます。

もちろん入手時に無料でもゴールドが経済上の価値を持つことはあり得ます。客観的にそれが明らかになるのがRMT、特にネットオークションを用いたRMTです。この論点については、しつこくて恐縮ですが過去エントリ「ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座」を参照ください。
スクエニとしてはRMTを規約で禁止しているわけですが、それだけに留まらず厳しい態度で、例えばRMT利用者への注意やアカウント利用停止等を行って、大多数のプレイヤーがRMTを行わない状態を保てれば、仮に「例外的に」少数の者がRMTに手を出したとしてもドラクエのゴールドは、換金が容易ではないため経済価値がない、あっても低いということになります。

このようにゴールドの経済的な価値がない(あったとしても低い)ならば、たとえそれを賭けてダイス機能で遊んでも「一時の娯楽に供するもの」であって賭博には該当しません。正犯(プレイヤーの賭博等)が存在しなければスクエニの幇助もなし。

仮に「例外的に」一部のプレイヤーがRMTを通じてゴールドを「高額なモノ」として賭けの対象とすれば賭博罪に該当する可能性は否定できませんが、その賭博行為が「例外的」であれば上述の判例によってスクエニが幇助の罪に問われることはなさそうです。

これがスクエニの考え方ではないでしょうか。

<フィロソフィー?>
スクエニが「「ダイス機能」に関するご案内(2012/08/30)」において
「ダイス機能」を利用したアイテムやゴールドの交換に関して、常識的なやり取りであればゲームシステムを利用したゲームプレイのひとつと考えております。
とダイス機能を利用したゴールド交換を認めている点について、ネット上では「賭博罪のリスクがあるのだから止めるように呼びかけるべきだ」との意見もありましたが、ここまで見てきたように、むしろゲーム内では「規約を守っている限りリスクはない」と言い切ることによってプレイヤーに安心安全に楽しんでもらう。それがスクエニのフィロソフィーなのかもしれませんね。
で、同社がRMTに厳しい態度を取り、仮にRMTが行われても「例外的」と言える状況を保持することが、この考え方の大前提なのだと言えるのでありましょう。

いつもながら個人の立場での考察と推測です。投資判断に用いてはなりませぬ。お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。


(*1)Winny最高裁判例については高橋淳弁護士のブログ(「Winny 最高裁判決」)を参考にさせていただきました。

(*2)Winny判例では正犯が著作権侵害でしたが、ここでは賭博罪であるため、まったく同じ考え方が適用されるとは限らない点に注意。

(*3)消費者庁「「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて

2012年8月14日火曜日

ダイナム目論見書チェック(株式事務編)

日本の会社が日本の証券取引所上場をスキップして香港に上場ということで、株式に関する日本と香港の法制度の違いも香港の投資家向けに詳細に説明されており興味深いのです。テクニカルな話ではありますが、自分の仕事に関わる分野ですのでお勉強も兼ねてご紹介。

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DYNUM JAPAN HOLDINGS Co., Ltd.
Prospectus (PDF)

MATERIAL SHAREHOLDERS' MATTERS UNDER JAPANESE LAW (p.11)

日本法における株主に関する重要事項

当社は会社法に基づき日本で株式会社として設立され、当社の主要事業は日本で営まれている。従って当社は日本の会社法とその関連法令および規制に服する。香港法はいくつかの重要な点で日本法と異なる。この章は、当社の株主が注意すべき重要事項と当社経営陣が考える、株式の所有、移転、企業法、株主の権利と義務、配当とその源泉徴収税、外国為替規制等についての日本法の要約である。当社への投資を検討している投資家は、この章の内容について疑義があれば、公認証券会社、銀行、弁護士、会計士その他の専門家に相談すべきである。

以下は当社に投資するに当っての株主に関する重要事項の概要である。この概要と共にこの目論見書に記載された各論点に関する記述も参照すること。

(1) 株券の物理的所有には重大なリスクが存在する

自己で、または第三者を通して株券を物理的に所有することを選択した場合、正当な権限を持たない第三者がその株券を手に入れて株主として株主名簿に記載するよう法的手続きを通じて当社に要求するリスクがある。

株券を紛失または汚損した株主は、正当な権限を持たない第三者に対して法的手続きを通して自らの正当な株主としての地位を主張しなければならない可能性がある。

CCASS(the Central Clearing and Settlement System,筆者注;日本の証券保管振替機構みたいなものと思われる)の実質株主は株式を物理的に所有するリスクを負わない。CCASS外で自らの名義で株式を保有するのであれば、当社に株券不所持の申出を行うか、保護預かりにすることを強く推奨する。

<筆者注:ここから先は小見出しとポイントだけで(てへぺろ)>

(2) 株券不所持の申出をした後で株券の再発行を依頼する場合、最長で6日間かかる

(3) 株券を紛失した株主は株主としての権利を制限される
<筆者注:株券失効制度による一年間の権利制限等>

(4) 日本法に基づき配当支払時に源泉徴収
<筆者注:リファンド手続による払戻しあり>

(5) 配当は香港ドルか日本円

(6) 外国為替取引等の報告
<筆者注:外為法に基づく日本銀行への報告>

(7) 当社または当社経営陣に対する法的手続きの困難さ

(8) 投資家に対する継続的な情報提供

(9) 当社株主名簿への記載
<筆者注:日本と香港では株式譲渡の方法と対抗要件が異なるため、香港では譲渡の証憑と香港印紙税法に基づく納付とスタンプが必要とのこと>

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途中で力尽きて省エネになっております。ははは。
最後の(9)に出てくる株券譲渡の方法及び対抗要件の違いが重要なポイントのようですね。日本では株券の占有者が適法の所持人(株式の実質的権利者)と推定されるわけですが。

いつもどおり、お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。

2012年7月31日火曜日

ダイナム目論見書チェック(三店方式編2)

前回取り上げたリスクファクター記載の三店方式からは、当事者間の独立性に強いこだわりを持っていることが読み取れます。今回は、これを理解するのに役立ちそうな他の部分を追加でご紹介なのです。

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DYNUM JAPAN HOLDINGS Co., Ltd.
Prospectus (PDF)

LAWS AND REGULATIONS
Amusement Business Law (p.125)
法規制
風俗営業法(以下「風営法」)

風営法はパチンコを含む風俗営業を規制しており、パチンコホール運営業者がパチンコホールを運営するに当って守るべき事項を定めている。風営法23条は、パチンコホール運営業者が、現金や有価証券を提供し、あるいは顧客に提供された景品を買い取って現金や有価証券に交換する形で景品換金に関与することを禁じているが、顧客がパチンコで得た特殊景品をパチンコホール運営業者以外の第三者に売却することは禁じていないし、パチンコホールが第三者から特殊景品を購入することも禁じていない。しかし、都道府県の規制によりパチンコホール運営業者が第三者に顧客から特殊景品を買い取らせることは禁止されている(「第三者規制」)。
The Three Party System (p.127)
三店方式(一部抜粋)
 当社の日本の法律顧問は、三店方式が当社も準拠しているパチンコ業界の業界標準慣行に則っており、またこれまで述べてきた要素を満たしている限り、当社のパチンコ事業は第三者規制にも風営法にも抵触しないと判断している。当社の日本の法律顧問はデューデリジェンスを行った結果、当社の各パチンコホールは上述の要素に照らして特殊景品買取業者と特殊景品卸売業者から独立であると判断している。
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風営法と第三者規制により、三店方式の第三者性と独立性がパチンコ事業適法性のキーポイントとされているようですね。外観にこだわった様式美、という気がしないでもありませんが…。
なお、都道府県の規制云々は古物商許可絡みかなと推測しますが、よくわかりません。

でわでわ。

2012年7月25日水曜日

ダイナム目論見書チェック(三店方式編)

パチンコ、パチスロホール運営のダイナムジャパンホールディングスが香港に上場するという。同社ウェブサイトでprospectus(目論見書)を発見したので、リスクファクターに記載されている三店方式部分を読んでみた。ついでに和訳もしてみた(誤訳御免)。

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DYNUM JAPAN HOLDINGS Co., Ltd.
Prospectus (PDF)

RISK FACTORS (p.65 )

RISK RELATING TO G-PRIZE WHOLESALERS AND PRIZE BUYERS

Our ability to operate our business is depend upon the services provided by G-prize wholesalers and prize buyers.

特殊景品(筆者注;買取を前提として換金に使われる景品。英文ではG-prize)を用いた三店方式に係るリスク
特殊景品を用いた三店方式に依存した事業運営
日本法は直接間接を問わず、パチンコホールが顧客に現金を渡すことを禁じている。したがってパチンコ業界は刑法を含む関連法令に適応するため、三店方式 -ホール運営者、特殊景品卸売業者、特殊景品買取業者- と呼ばれる方法を採用している。当社は、特殊景品買取業者や、当社に特殊景品を提供する特殊景品卸売業者の継続的な事業に依存している。当社の総景品払戻額のうち、2010年3月期、2011年3月期、2012年3月期において、それぞれ約96.9%、96.9%、97.6%が特殊景品であった。

当社は特殊景品卸売業者と結んだ契約にしたがって特殊景品を購入し、また特殊景品卸売業者と締結した賃貸契約にしたがってパチンコホール所在地の一角を賃貸し、特殊景品卸売業者はさらにそこを特殊景品買取業者に転貸する。当社は現在、8社の特殊景品卸売業者と非排他的な関係を結んでおり、彼らは特殊景品買取業者と関係を結んでいる。当社と特殊景品卸売業者との関係のいずれか、または特殊景品卸売業者と特殊景品買取業者の関係のいずれかが終了した場合、当社事業に混乱をもたらす。そのような場合、当社は他の特殊景品卸売業者と関係を結び直さねばならず、さらに当該特殊景品卸売業者は特殊景品買取業者と関係を結び直す必要がある。当社あるいは業者は相互に受入可能な条件で合意できるとは限らず、その場合には当社の事業や財務状況、事業の結果や見通しに重大な悪影響を与えるだろう。
We may be adversely affected by any breach by the G-prize wholesalers or prize buyers of the independence requiements adopted under the Three Party System.

三店方式に要求される独立性を満たせないリスク
パチンコ、パチスロ営業は風営法の規制に服しており、風営法は直接間接を問わずパチンコホールが顧客に現金を渡すことを禁じている。したがって当社、特殊景品卸売業者、特殊景品買取業者は相互の独立性が求められる。特殊景品卸売業者、特殊景品買取業者は当社にとって第三者であり、当社は特殊景品卸売業者との契約関係以外に何ら支配力を行使していないが、もし特殊景品卸売業者とその契約先である特殊景品買取業者の間の独立性が十分でないことを当社が認識した場合、当社は当該特殊景品卸売業者との取引を止めるか、あるいは当該特殊景品卸売業者に当該特殊景品買取業者との取引を止めるよう求めることによって相互独立性を回復しなければならない。もし当該特殊景品卸売業者との取引を止め、新たな特殊景品卸売業者との関係を結び直すなら、以前の特殊景品卸売業者と取引していた全ての特殊景品買取業者も入れ替えるか、あるいは新たな特殊景品卸売業者と関係を結び直す必要がある。これはその問題に関係するパチンコホールの事業運営に混乱をもたらしうる。
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本ブログ及び本エントリの情報は投資を勧誘するものではありませんし、誤訳誤解の責任は負いかねますので予めご了承ください。不慣れな分野ゆえ、お気づきの点がありましたら優しくご教示いただけると幸いなのです。

2012年5月26日土曜日

ウッドフォードさん、ちょっと違うかも

東洋経済の元オリンパス社長インタビュー記事(2012年5月25日付)。

ウッドフォード氏は、日本人はサムライと愚か者に分かれると指摘。愚か者はオリンパス新旧経営陣を、サムライは氏とともにオリンパス新旧経営陣を指弾する人を指すようです。
「イデオット(筆者注;愚か者)とは、たとえば先日(4月20日)のオリンパスの臨時株主総会で壇上に上がっていた人たちだ。不条理なことを言い、ふざけた行動をとる。
一方、サムライは信念を曲げず、人間関係によって態度をかえたりしない。たとえ戦うことになっても、妥協を選ばない」
ここにサムライについて重大な誤解がある気がします。
サムライは主君とお家に忠誠を誓います。このようなメンタリティが現代社会に持ち込まれると、上司は絶対であり所属組織の存続が最優先となります。その結果「会社のために世間を欺く」という企業不祥事が起きる。まさにウッドフォード氏が指弾しているオリンパスの事例でありましょう。

サムライの語が表象する武士道こそが、企業不祥事の多くの原因であり、コーポレート・ガバナンスの対処すべき課題なのです。
具体的な例として、昨今の会社法改正議論で注目を集めている社外取締役義務化の動きは、経営陣に忠誠を誓うのではない、会社存続を最優先に考えるのではない、独立した部外者の目を取締役会に導入しようとするものです。

このようにサムライの武士道すなわち「統治の倫理」は現代ビジネスと必ずしも相性が良くない、むしろ有害であるというのは、ジェイン・ジェイコブズが『市場の倫理 統治の倫理』で明らかにしており、これを受けて日本でも山岸俊男が同様の指摘をしています(例えば『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』)。

ウッドフォード氏はサムライという言葉で我々日本人の共感を集めたかったのかもしれませんが、適切ではない気がします。
もっとも、一貫して経営者市場という市場で自らの価値=評判を上げるための合理的行動をとっているウッドフォード氏は、ビジネスにおいては営利をわきまえた「市場の倫理」に基づいて行動をすべき、というジェイコブズや山岸の主張については、忠実に実践しているようですね。

日本では経営者市場があまり機能していないのでありますが。


<参考文献>
ジェイン・ジェイコブズ、香西泰訳『市場の倫理 統治の倫理』日本経済新聞社,1998
山岸俊男『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』集英社インターナショナル,2008

2012年5月21日月曜日

コンプガチャ 消費者庁規制の解説のような


5月18日、消費者庁より「「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて」が発表されました。

今まで報道されていたとおり、ソーシャルゲームのコンプガチャを景表法による規制対象とするものであり、逆に言えば景表法ではコンプガチャだけが規制されるわけであります。なお、厳密にはコンプガチャは新たに違法になるものではなく、従来から違法だったことが明らかにされたという建付けですね。

図1

<一度は>
先日のエントリ「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」に書いたとおり、景表法の枠組みで景品規制を考える場合、取引付随性が問題になります。事業者が提供する製品/サービスそのものである取引(本体)と、この販売のために顧客を誘引する景品(おまけ)が要件です。そもそもゲーム運営者はゲーム提供を生業としていますから、景表法規制を検討するならゲームタイトル、例えば「探検ドリームランド!」を取引(本体)と考えるのが自然でありましょう(図1)。ところが、

消費者庁「ゲームが取引(本体)であって、ゲームに顧客を誘引するガチャが景品(おまけ)であろう。」
ゲーム運営会社「これは異なことを申される。ゲームは無料で遊べますから取引(本体)とは言えませんな(キリッ)」

というやり取りを経て(推測)、消費者庁の「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」という認識を表したのが本年2月の日経報道だったのでしょう。

<再考 0518>
だがしかし。
消費者庁はもう一度よく考えてみました。何らかの理由で。何らかの理由で。大事なことなので二回言いました。

ガチャがダメならコンプガチャだ! とばかりに、コンプガチャを
1)有料のガチャ(シリーズA)
2)一定のカードが揃ったら特別カード取得(シリーズB)
という二つのプロセスに分解し、前者を取引(本体)、そして後者を景品(おまけ)とみなします。かつて「ゲームそのものは無料で遊べるから取引(本体)たり得ない」という反論があったせいか(推測)、消費者庁は、わざわざ「有料のガチャ」とした上でこれを取引(本体)としています(図2)。もはやゲームは無視。これじゃゲーム運営会社じゃなくてコンプガチャ運営会社になっちゃう。。。

図2

この新しい解釈の結果、コンプガチャだけがピンポイントで景表法に抵触することとされたのです。

<戦わずして?>
このロジックは議論の余地がないでもない気がする今日この頃ですが、既にゲーム会社は足並みを揃えて一斉に「コンプガチャ廃止」を表明済みであります。これにて一件落着、なんでしょうか。

なんとなく奥歯に物が挟まったようなエントリだな、と思った読者は読解力があります。ここから先は先日のエントリ「続 ソーシャルゲーム ガチャと景表法」を改めてご参照願う次第なのであります。


いつも通り、お気づきの点がありましたら優しくご教示をお願いします。

2012年5月11日金曜日

ソーシャルゲームと景表法 関連法令集

ソーシャルゲームのコンプガチャ騒動に関する景表法関連法令集。

不当景品類及び不当表示防止法(景表法)

景品類の価額の算定基準

不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件(定義告示)

景品類等の指定の告示の運用基準

懸賞による景品類の提供に関する事項の制限(懸賞制限告示)
 → コンプガチャが5項(カード合わせ)に該当し、提供禁止
 → かつてのビックリマンチョコは3項によりレアカードの高級処理ができなくなった…

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準
 → 4項によりチョコボールの金・銀エンゼルはカード合わせに該当せず禁止されない

一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限(総付け景品制限告示)
 → かつてのビックリマンチョコは当初こちらと認識していたらしい

「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準

2012年5月10日木曜日

続 ソーシャルゲーム ガチャと景表法

5日のエントリ「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」の続き。

コンプガチャが景表法の絵合わせに該当し違法であるとの消費者庁の見解により、ソーシャルゲーム運営会社が相次いでコンプガチャの廃止を表明しています。最大手2社は「ただちに違法とは考えていないが」廃止と発表。

・2012年5月10日付 日経電子版「コンプガチャ全廃へ グリー・DeNA・サイバーなど

<違法ではないけれど?>
今までコンプガチャで高収益をあげてきたわけだし、5月末まで継続するのだから「違法です」と認めるわけにはいきませんね。でもそれだけではありません。「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」で指摘したように、消費者庁は本年2月の時点でガチャ一般が景表法には抵触しないと表明しているのです。

<景表法>
今回焦点となっている不当景品規制について、一般的な規定の独占禁止法に対し景表法は対象を「取引に付随した景品類」に限定しています。
景表法2条3項
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
このように景表法の景品とは、顧客を誘引するために何らかの取引(言わば「本体」)に付随するもの(言わば「おまけ」)です。ソーシャルゲームについて、もしコンプガチャが景品=おまけなら、本体たる取引はなんだろう? ゲームそのものが本体というならコンプガチャはゲーム販売において「顧客を誘引」するおまけなんだろうか。むしろゲームの構成要素ではないだろうか。
このように、コンプガチャの取引付随性には疑問の余地がないでもないのです。ガチャ一般について消費者庁が本年2月時点で「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と考えたのも同じ理由でしょう。

ところで、違法でないと考える余地があるなら、なぜ争わずに収益性の高いコンプガチャを廃止するのでしょうか。「違法とは考えていない」のであれば、しかも上記の消費者庁見解があったことを考え合わせれば、消費者庁の正式なアクションを待って、それに対して上記のような論点について公の場で議論を重ねるべきでしょう。なぜ戦わずして白旗なのか。しかもみんなで。

ソーシャルゲームのガチャ一般についての法的論点は、景表法、賭博罪(刑法185条)およびそれに関連して風営法があります。
【景表法=みくる】、【賭博罪=有希 & 風営法=ハルヒ】
といった感じでしょうか。本件での戦闘力の例えとして。え、わからない? じゃわかりやすく。
【景表法=真尋】、【賭博罪=クー子 & 風営法=ニャル子】
そう、もし戦えば目の前の景表法=真尋を倒すことはできても、後から出てくるクー子とニャル子によって自らの存在を否定されてしまうことは確実なわけです。だったら戦わずして白旗ですね。

<超局地戦>
「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」ってすごくピンポイントの局地戦です。攻める方も守る方も。攻める方にとってこの戦術を意味づける戦略は、賭博罪&風営法という最終兵器を使わずに勝つということなのでしょう。戦略は目的を達成するためのもの、とクラウゼヴィッツは言います。ではこの戦略の目的はなんでしょうか。それはたぶん
ソーシャルゲーム業界が持続的に成長できるような自己規制を導入すること。
まとめると、ソーシャルゲーム業界の持続可能な成長のために自己規制を導入する(してもらう)という目的があり、それを実現するための戦略として強力(過ぎる)賭博罪&風営法を後方配置した上で、極めてピンポイントな個別戦闘すなわち「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」が戦術として設定された。

誤解を恐れずに言えば、「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」は一つのパーツに過ぎず、消費者庁も多くのプレイヤーの一人に過ぎなかったのかもしれません。少なくとも今回は消費者庁の強権とか新興産業つぶしという批判はあたらない気がします。
いずれにせよソーシャルゲーム業界には、これからが本当の正念場ということになりそうです。この見方が正しければ、自主規制対象はコンプガチャだけではありませんし、いつでもクー子&ニャル子(最終兵器)発動があり得るのです。目的が達成されるまでは。

<リークと決算発表>
連休明けの5月8日、9日にソーシャルゲーム運営会社大手の決算が発表されました。
【もし】5月5日のリークがなかったら
この決算発表で公表する業績の将来見通しはどうなったでしょう。自分がゲーム運営会社の当事者だったら困ってしまいます。なぜなら通常通り、今までの業績推移をリニアに伸ばして成長を見込んで発表してしまったら、その後で規制が入ったときに株価は暴落し、投資家は「なぜ規制導入が不可避だったのに高成長を公表したのか」と言うでしょうし、会社及び経営陣は業績予想開示の法的責任を問われる可能性があります。
かと言って何も決定的な事実がないのに、規制を見込んで業績予想を低めにしました、とも説明しづらい。何をどれだけ禁止されるか/自主的に控えるかは決まっていないわけですから、業績予想を見込みようがないわけです。

なので、決算発表前に消費者庁の意向として景表法違反がリークされたことは、ゲーム運営会社にとっても「消費者庁がああ言っているのでコンプガチャ止めます」、「業績予想は出せませぬ」、「細かいことはこれから」と言えるかっこうの理由になったわけです。また連休中だったことで消費者庁もゲーム運営会社も直接の対応に追われることなく、そのショックがマーケットに織り込まれる時間が十分に確保されたました。ということで、連休中のリークは攻守双方にとって最後のチャンスだったという見方もあるかもしれませんね。


お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。

<参考文献>
白石忠志『独占禁止法』有斐閣,2009
谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』他 角川書店
逢空万太『這いよれ!ニャル子さん』ソフトバンククリエイティブ

2012年5月5日土曜日

ソーシャルゲーム ガチャと景表法

<景表法違反?>
5月5日付 読売新聞朝刊が、消費者庁がソーシャルゲームのコンプリート・ガチャ(以下「コンプガチャ」)を景表法違反と判断したと報道している。もっとも5日お昼現在でもネット版の記事はなく、他社の追随報道も見当たらず(※)、連休中に新たな事実や判断が発生するものか、という疑問点も指摘されているが、いずれにせよ大きな反響を呼んでいることは間違いなく、2月に書いた当ブログのソーシャルゲーム・シリーズも改めてアクセスが増加している。
当ブログが、最近ソーシャルゲーム・シリーズはアップデートしていない、しかもこれらのエントリは今日問題になっている景表法への言及が少ない、という二点において検索経由で来ていただいた訪問者を落胆させていることは間違いなく、まったくもって日本人である筆者は訪問者の舌打ちが聞こえる気がして恐縮至極である。

この状況を打開するため、かつ一方でゴールデンウィーク中で網羅的に調べモノをする余裕がない、さらに過去エントリの内容を忘れつつある、という制約の範疇で、簡単に概況を要約しておきたい。

そもそもコンプガチャ問題の法的論点は、以下の通り。

1) 景品表示法(「景表法」)
2) 賭博罪(刑法185条)
3) 風俗営業法

当ブログのエントリを含め世の中で景表法よりも賭博罪での議論が盛り上がったのは、消費者庁自らが「ガチャは景表法の問題ではありません」と宣言した(と伝えられている)からである。
2月16日に消費者庁で開かれた「インターネット消費者取引連絡会」の会合で、参加者が「ガチャに景品表示法違反の可能性がある」などと指摘している。だが、消費者庁表示対策課は「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と特に問題視はしていない。(2012年2月25日付 日経電子版「行き過ぎたソーシャルゲーム」)
ゲームの中で行われるゲームの構成要素としてのガチャは景品ではない、と言われれば「まぁ、それはそうですなぁ」となるので、この時点で消費者庁の理屈は通っていたと言える。
というわけで、その後は賭博罪、それに付随して風俗営業法の適用が議論されてきたのである。

<回帰?>
ではなぜ、今。改めて景表法に話が戻ってきたのか。
筆者の推測では、このまま賭博罪と風俗営業法のロジックで詰めていくと被害が大きすぎる、と規制する側とされる側が合意したのだろう。賭博罪と風俗営業法は、国内のある一地方での不穏な動きを押さえるのに核兵器を使うようなもの。先人の知恵を借りれば「牛刀をもって鶏を割く」だ。なので、ひとまず当事者全員にとって受け入れられる現実的なところを目指しましょう、と。

となると、細かいことが気になる筆者としては「コンプガチャは景品ではなかっただろうに」と突っ込みたくもなるのだが、この点は、「いや、よく考えてみたらコンプガチャによってゲームの売上げが上がるんだから、顧客の誘引でしたな」という考え方もある、、、んだろう。

さらにもう一つ。
景品の定義は「経済上の利益」(景表法第2条3項)。
だから、コンプガチャを景表法上の景品と見なすということは、コンプガチャ(で得られるカード)が経済的価値を持つと公式に認めることになる。となると、仮に景表法上の「絵合わせ」問題をクリアしても、賭博罪と風俗営業法等の問題は引き続き残り得る、ということだ。逆に言えば、そちらを避けるには景表法でしっかりと対応してこの議論を収束させる必要がある。

one more thing.(しつこい?)
ソーシャルゲームでユーザが支払う、あるいはユーザ間でやりとりする対象はあくまでデジタルデータである。景表法であれ、賭博罪&風俗営業法であれ、モノではなくデジタルデータについて適用するには深い谷が横たわっている。それでもその谷を跳ばねばならぬなら景表法の「絵合わせ」の方が何かと何だ、という関係者の判断なのだろう。

冒頭で書いたように、景表法違反の取り扱いは未だ確認されておらず、実際には異なる結論になるかもしれない。しかし、もし今朝の報道の通りだとしても、それはそれで現実的な当面の(あくまで当面の)落としどころとしては悪くないのではないか、などと考える子供の日なのでありました。

いつも通り、お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。


※5月5日の夕方に毎日新聞ウェブ版(毎日.jp)記事掲載。
携帯電話ゲーム:コンプガチャ 景品表示法抵触の可能性
※5月5日21時頃、日経電子版にも記事掲載
コンプガチャ、アイテム商法は違法 消費者庁

※5月7日 定義方法が分かりづらいため、ガチャとコンプガチャの表記を本文中で区別

2012年4月26日木曜日

続 ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)

前回のエントリ「ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)」で、住生活グループのストックオプション開示について考えたわけですが、なんと同社は発行中止を発表した同じ17日に改めて同内容で発行決議を取り直し開示しておりました。
ストックオプション発行決議 → 中止の可能性開示 → 中止決議 → 発行決議、と足掛け二日間のうちに激しく揺れ動いた舞台裏の関係者皆様の苦労は察するに余りありありです。

前回のエントリでは有価証券届出書の提出失念の可能性を推測したわけですが、このように翌日に発行決議を行い有価証券届出書をキチンと提出しているところをみると、有価証券届出書は準備できていたと考えるほうが自然です。関係者の皆様にはお詫び申し上げます。

じゃあ原因は?
懲りずに考えましょう。

臨時報告書と有価証券届出書ができていたのであれば、考えられるのは不測の事態により、
提出が間に合わなかった!
しかし、間に合わなかったなら日付その他所要の修正を施して翌日に何食わぬ顔をして提出すれば良いはず。前回エントリにも書いたように臨時報告書は「遅滞なく」提出すれば良いわけですし、有価証券届出書については提出が遅れた分だけ効力発生日が遅れるだけで、本件では一日くらい遅れても問題なかったはずであります。
となると、やはり取締役会決議と臨時報告書 and/or 有価証券届出書提出が同日でないと具合がよろしくない理由が他にあったのでしょう。

それは、ストックオプションという新株予約権発行の開示が有価証券の勧誘に当る、という懸念かもしれません。有価証券取得の勧誘には有価証券届出書の提出が必要です。
 取締役会決議(ストックオプション発行) → 開示 → 有価証券届出書提出
というロジスティクスでは、厳密には有価証券届出書の提出前に取得勧誘(とみなされるかもしれない)開示が先行しますが、まぁ同日中に有価証券届出書を提出することによって同日中の前後関係は不問に付される、というオトナな社会通念なのかも。
だが、有価証券届出書が翌日の提出となってしまうと開示と有価証券届出書提出の日付がずれてしまい、金融商品取引法違反に問われる(かもしれない)!

この事態を打開するため、いったん16日の決議を取消し改めて17日に決議し直した上で細心の注意を払って有価証券届出書提出と開示を同日に行う、と(また失敗したら、、、という担当者のプレッシャーはいかほどであったでしょうか)。中止の開示と再発行の開示にタイムラグがあったのは、有価証券届出書の無事提出を見届けてから再発行を開示したのかもしれませんね。
というわけで、
  • 4月16日に発行を決議し開示した後、予定していた有価証券届出書提出を何らかの理由で完遂できなかった
  • 既に行ってしまった開示と有価証券届出書提出の日付がずれることは許されない
というのが今回の騒動の原因と思料するものであります(あくまで推測)。


お気づきの点がありましたら、いつものように優しくご教示願います。

2012年4月17日火曜日

ストックオプション担当者のユーウツ(住生活グループの事例)

※2012年4月23日 追記
なんと、発行中止を発表した同じ17日に改めて同内容で発行決議を取り直していました。
2012年4月17日付 ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ
深まる謎に続編エントリで挑む!

---以下原文---

住生活グループ(5938)のストックオプション開示、怒涛の三連発。

2012年4月16日付 ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ
2012年4月16日付 ストックオプション(新株予約権)の発行中止の可能性に関するお知らせ
2012年4月17日付 ストックオプション(新株予約権)の発行中止に関するお知らせ

いったい一晩の間に何が起こったのか、ことの次第を推測してみましょう。

「発行中止」開示によれば中止の理由は、
当社事務手続き上の不備により、関東財務局に提出すべき平成24 年4 月16 日付け有価証券届出書及び臨時報告書を提出することが出来なかった
とのこと。
臨時報告書は、当該ストックオプションの発行価額と行使価額の合計額の総額が1億円を超える場合に、取締役会決議があった際に提出が必要となる(金融商品取引法24条の5第4項、開示府令19条2項2号)。提出のタイミングは「遅滞なく」なので、取締役会決議があった当日の16日に間に合わなかったなら翌日に作成提出すれば良いですね。したがって臨時報告書は本件中止の決定的理由ではありません。

問題は有価証券届出書か。
ストックオプション発行は有価証券の募集に該当し、原則として有価証券届出書の提出が必要(金商法2条3項1号)。
 付与対象者が50名未満であれば例外扱いもあるのですが、「発行」開示によれば本件付与対象者は128であり50人を超えていますね。また、付与対象者が当該会社と完全子会社の役職員に限定されている場合も例外扱いですが(金商法4条1項1号、金商法施行令2条の12)、「発行」開示によれば割当対象者には、
(※2)本邦以外の地域において取得の申込みの勧誘がなされる新株予約権の割当ての対象となる者が11名含まれており、当該割当対象者に対する割当新株予約権数は2,500個であります。
だそうで、ここに完全子会社所属ではない役職員が含まれていたと思われます。

だとすれば有価証券届出書を急いで作成提出すれば良い、、、のですが。
有価証券届出書はほぼ有価証券報告書と同等の内容。作るのはタイヘンであります。さらに住生活グループは3月決算のようですから、関連部門はまさに決算作業の真っ最中。これから5月前半に決算役員会で決算承認、同日決算短信開示、それから有価証券報告書を作成して6月総会後にこれを提出、と怒涛のスケジュールですから、
「えーと、忘れてたんで有価証券届出書の作成提出よろ!」
なんて明るく言える状況じゃないわけですね。
そもそも有価証券届出書の効力発生は提出から15日経過後なので、本件5月9日の発行に間に合わせるためには4月23日までに作成提出しなきゃ、、、ってムリムリ。決算閉まってないし。

ということで本件ストックオプション付与中止は、
  • 付与対象者が50名を超え、
  • 完全子会社ではない会社の役職員を含み、
  • 有価証券届出書の例外規定に該当せず、提出が必要なことを失念し、
  • 気づいたものの、付与日に間に合うよう有価証券届出書を作成できない社内状況
という複合要因により引き起こされたものと思料するのであります(あくまで推測)。


お気づきの点がありましたらいつものように優しくご教示願います。

2012年4月1日日曜日

『3月のライオン』を山岸俊男で科学する

『3月のライオン』7巻。ヒナへのイジメ問題。ネタバレなので要注意なのです。

「微細な初期値の差異が非常に大きな結果の違いをもたらす」

ここで、南洋のチョウの羽ばたきが生じさせた空気のわずかな動きが、回り回って台風となって日本上陸! みたいな例に筆者の心はときめきません。なぜなら「その」気まぐれな羽ばたきがあってもなくても、いずれにせよ毎年ほぼ決まった数の台風が発生し、そのうちいくつかは夏から秋にかけて日本にやって来るからです。

でも山岸俊男『「しがらみ」を科学する』で展開している「イジメの螺旋」プロセスは似て非なる魅力を放っています。
これは「同じクラスでも、イジメ排除に参加する人数という初期値の違いによって、イジメが発生するか否かという大きな結果の違いをもたらす」というもの。

例えばあるクラスに自分一人でもイジメを阻止するという硬骨漢もいれば、他に14人いれば参加するという生徒も、あるいは絶対自分は関与しないという生徒もいる。このクラスでイジメが発生し、たまたま14人がイジメ阻止に参加表明。これが初期値。このとき参加表明者に含まれる、他に14人いれば参加というパラメータを持つ生徒2人にとっては自分達以外は12人なので、参加者数ががしきい値を超えておらず、「やっぱりヤメますの」となる。他に12人の参加者が必要であった次の生徒にとっても他の参加者が11となってしまい、やはり「ワタシもやっぱりヤメますの」となって、、、結局イジメ阻止参加者はなし崩し的に一人になってしまう。この一人は「自分一人でもイジメに立ち向かう」硬骨漢ですね。で、多くの場合この硬骨漢もイジメの対象になってしまう。これが下向き螺旋プロセス。

まさに『3月のライオン』6巻までのヒナじゃありませんか。

下向き螺旋プロセスとは逆にイジメ阻止参加者初期値が15人だと、なし崩し的に参加者が増えていき、ほぼ全員がイジメ阻止に参加することになり結果としてイジメはなくなる。これが上向き螺旋プロセス。詳しく知りたい方は下記参考文献で学習してください。
もちろん、ひとたび下向き螺旋プロセスが進行し終わった状態で孤立するヒナの味方をする生徒がいきなり14人増えることはありませんね。羽海野チカ先生はそれほど甘くありません。

実は山岸俊男『心でっかちな日本人』のほうに同じ螺旋プロセスの説明があり、こちらではもう一つ重要なファクターの説明があります。先生です。
本当にイジメをなくす心意気がある先生(『心でっかちな日本人』では「熱血先生」)だと生徒が信用すれば、この先生はイジメ阻止参加者数の生徒何人分にも相当します。要はクラスの生徒がイジメ阻止に参加しても自分は不利益を被らない、と信用できるかどうかなのです。

『3月のライオン』7巻。
ヒナのクラスの担任が倒れたことによって学校側が問題を看過できなくなり、代わりに新担任を送り込んでくる。クラスの生徒達は学校側と新担任が本気であることを認識し、イジメ阻止参加者が加速度的に増えていき、最終的にイジメは解消。もちろん加害者と被害者で大団円、と簡単にはいかないのが現実の厳しさ。Gメン75的とでも言いましょうか(古い?)

さて、今日のインプリケーション。
集団における問題は「思いやりが希薄になった」というような心の問題ではなく、行動原理とインセンティブの組み合わせの問題である。
でもって、この問題意識というかフレームワークは日本的経営に適用され、ひいてはコーポレート・ガバナンスや会社法制に対する重要な視座と論点を提供する予定なのであります(あくまで予定)。


<参考文献>
羽海野チカ『3月のライオン』1〜7巻、白泉社
山岸俊男『「しがらみ」を科学する』筑摩書房、2011
山岸俊男『心でっかちな日本人』筑摩書房、2010 (オリジナルは日本経済新聞社、2002)

2012年3月9日金曜日

ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座

ガチャが賭博にあたるのではないかという疑念が世の中でだいぶ高まってきたようだ。例えば下記のブログエントリは最新の新聞記事とブログ記事を参照しており、まとめとして優れている。

もと切込隊長ことやまもといちろう氏のブログ
ソーシャルゲーム(オンラインゲーム)のガチャがRMTと併せ技で賭博法に抵触の可能性について(追記あり)

一方で、ガチャとRMT(Real Money Trade;要するに換金)の関連は必ずしも明確ではなく、もう少し厳密な検討が必要だろう。

以前のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察」でも指摘したように、賭博は違法であり、射幸心を煽ってはいけないけれど、風俗営業法の規制内でなら少しばかり強めの刺激も認めてあげる、というのがパチンコ/パチスロだ。
ソーシャルゲームのガチャはRMTによって換金が可能ゆえパチンコ/パチスロの三店方式のアナロジーでこれを問題視するなら、必然的にソーシャルゲームのガチャを風俗営業法の規制下におくべし、と主張することになろう。ソーシャルゲームは多少のギャンブル性を認めてもらう代わりにパチンコ店と同様に立地、営業時間、年齢制限、営業方法もろもろの規制に服することになる。

しかし。それはゲーム運営者、プレイヤー、警察方面の方々(規制者)の誰もが幸せにならない未来ではないのだろうか。
(規制者には新たな権益が入ると言う見方もあるでしょうが、規制者側ではたぶんパチンコ/パチスロに議論と関心を飛び火させるなという懸念の方が大きいのでは、などと背伸びして大人な妄想をしたり)
そもそも、換金と賭博罪について若干の誤解があるのかもしれない。

賭博は違法。「ただし、一時の娯楽に供するものを賭けたにとどまる」場合はOK、と刑法185条は定めている。一時の娯楽に供するものとは、ちょっとした飲み物、食事程度を指す。ちなみに金銭そのものは一時の娯楽に供するものではないという判例があるので金額の大小に関わらず違法。なので、一時の娯楽に供するものを超える(まあ、高額なものと言って良いだろう)【モノ】も賭けたらダメなのである。
「金銭はダメでモノなら良い」は誤解。「アイテムをRMTで換金した途端に違法になる」も誤解。

ネットオークションという広く開かれた市場で取引されている値段はそのアイテムの客観的な時価を表すと考えられる。この客観性は価格の指標性、アクセス及び取引の容易さ、高い流動性を含む。ネットオークションにおいて一定の頻度で、数万円、場合によっては10万円を超す値段で取引されていれば、そのアイテムはどう考えても「一時の娯楽に供するもの」とは言えないだろう。

もう一つ、ガチャでゲーム運営会社の収益が数億円、数十億円単位で大きく向上する/したと仮定すると、そのこと自体が「一時の娯楽に供する」モノを賭けているとは言えず、まさに射幸心を煽っている状況だ。

もっとも、この点についてはゲーム運営側に反論の余地がある。ガチャのプレイ実績数(登録ユーザ数ではありませぬ)とガチャの合計収益を開示すれば良い。「多くのプレイヤーと少額な収益」でそれほど一人当たり多額のカネが動いていないなら杞憂でした、となるし、逆に(以下略)。

三店方式のアナロジーにこだわらず、1)客観的に高額と評価されるアイテムを得ようと2)多額の金銭が動いている点にフォーカスした方がシンプルな分、議論として強い気がするし、トレーディング・カードに比べてこっちの問題が際立つとも言えよう(トレーディング・カードの実情は良く知らないのですけれど)。
【今日の教訓】
RMTが直接的に問題なのではない。客観的に高額なアイテムを射幸心を煽る方法で提供することが問題。
いつも通り、考えながら調べながらの思考実験ですので、ご意見や情報がありましたら優しくご教示いただけますと幸いです。これまでも多くのフィードバックをいただき感謝です。

「木綿のハンカチーフ」(椎名林檎版)を聴きながら

2012年3月6日火曜日

年功序列と比較優位(その1)

年功序列。
言わずと知れた日本的経営の要諦で、勤続が長くなるほどに偉くなって給料が上がる仕組み。

典型的には、主任、係長、課長、次長、部長と上がっていき、さらに会社によってはこれらに代理や代行が組み合わされたり、「総務部長」と「総務部 部長」の使い分けがあったりと、外部から(いや内部でも)序列を正確に把握するのはなかなか簡単ではない。
いずれにせよ、これらの役職階段を一段一段上がっていくことは一般的に部下が増えることを意味している。要するに人事管理としてのマネジメント負担が昇進に比例して増大していくわけだ。

すると、一つ疑問が生じる。
「自分は職人で手を動かすのが好きだし、得意だ。人事管理なぞに煩わされたくない。」というエクスパート(専門職)な方々はどうなるのか。比較優位理論によれば、エクスパートはエクスパートに専念した方が会社にとっても日本全体にとってもプラスである。

この対応の一つが、先ほど挙げたように役職を巧妙に使い分けて「部下を持たない」管理職を作ることであり、またオモテの役職とは別にウラの資格で管理する制度である。
ここだけの話、これらはエクスパートのためというよりは、組織内の昇進レースの敗者を優しく包み込む役割の方が大きかったりするのだが、そういうことを公の場で論じてはいけない。
そんなことであれば、堂々とエクスパート制度を作れば良いではないか、と考えるのが自然な流れ。実際、筆者もかつてそう考えて試案を作ったのだ。
いわゆる一般コースでは役職が上がるにつれ給与に占める人事マネジメント相当分が増えていくように、エクスパート・コースでは何らかの業務を人並み以上にこなし(仮に特化業務と呼ぶ)、それが給与の増分を説明する。diversity(多様性)ですからね、これからは!

ところが。
筆者のエクスパート・コース試案は日の目を見ることはなかった。社内で支持を得られなかったのである。しかも意外なことにネガティブなのが経営者サイドよりも、むしろ現場に近い層だった。曰く、

「複数のコースがあるとキャリアプランが混乱し、部下を指導しにくい」
「エクスパートを誰が管理/評価するのか」
「仕事には人事マネジメントの経験と視点が必要である」
「結局、エクスパート・コースは言い訳に使われてしまい、ワークしない」

ハイハイ、皆さんがネガティブなのはわかりました。見送りですね。
どれ一つとっても決定的な理由にはなっていない気がするけれど、とにかく抵抗感は伝わってくる。筆者が思うに、要は、
「みな同じ前提で働くべし」
なんですね。この場合は「全員が同じ人事制度に乗っていなきゃ、やりにくい」と。少なくとも同じ部署や本部の中では。

長くなったので続く(かも)。