2011年10月25日火曜日

オリンパス騒動 疑問編2 FA手数料高い?

Gyrus社買収に関してファイナンシャルアドバイザー(FA)に支払われた手数料は〆て$687M。

ウ氏資料内でも指摘されているとおり、こうしたM&A案件の手数料は「高くても」買収金額の1%。ちなみに私が仕事で関わった国内案件では、けっこう手間と時間がかかったものでも手数料は1%の半分をだいぶ下回っている(私が値切ったのだが)。2000億円というGyrus社の案件であれば1%の20億円が上限だったはずだが、実際に支払われたのは$687M(2010年3月末の為替レートで換算して約639億円)だから、世間の相場上限の約30倍だ(私の相場だとほぼ100倍ですけど)。
従ってこの手数料額は一般的な許容範囲を超えている、と言えるだろう。

ではこの尋常でない額の手数料を支払った経営陣の責任を追及するとどうなるだろうか?
オ社経営陣は「一連の報道に対する当社の見解について」で$687Mのうち$443Mは報酬として発行したストックオプション(後に優先株に差替え)$177Mの値上がり分だから報酬額は$244Mだと主張しているようだ。もっともウ氏資料の経緯を見る限りワラント買取の$500Mもストックオプションの$177Mに由来するようなので、そうだとすると手数料は減少して$194Mとなり、むしろウ氏説の方がオ社経営陣にとって望ましい説明のような気がする(2日前のエントリ「オリンパス騒動 まずは経緯の整理」参照)。この$194Mだと買収金額の約10%となり相場の1%よりはるかに高いとは言え、$687Mの30%超に比べるとなんとなく優しい気分になって攻める気が薄れてしまうのが不思議だ。

仮に公の場で議論したとき、「1%という数字はあくまで相場であって、基準やルールがあるわけではない。10%でも経営陣がそれだけの価値があると判断したのだ」と言い張られたら、法的な責任をそれ以上追及するのは難しいかもしれない。
だが、オ社株主は自ら選任した取締役が大事な会社資産をムダにしなかったか、について立証の必要はなく是か非かを判断するだけで良い。その判断のためには必要な情報と説明を要求するべきで、報道によれば既に海外の大株主がそのような要請を始めているようだ(2011年10月21日付Bloomberg記事)。もし非と判断する株主が多数派になれば経営陣の将来の再任を否決するか、さらに任期途中で解任する選択肢もある。ここでいう多数派は株主の頭数ではなく持株数で決まるのが資本多数決である。

ならば成功報酬としてストックオプションをFAに付与し($177M)、後に4倍近い金額($670M)で買い戻したことに問題はないのか、次回に乞うご期待。

【追記】なぜストックオプション?
次回で書くつもりだったけれど、FAの報酬を対象会社のストックオプションで払うのは珍しい。しかも契約書上で成功報酬の85%、実際には90%を超える極めて高い割合だったからなおさら疑問だ。受け取る側のFAだって、ふつう現金を好むでしょ? わざわざこんなことをするのは手数料が過大になるのを防ぎつつ別名目で資金を動かせるように、これらのストックオプション(後にワラント、優先株)に値上がりの余地を残し後に高値での買戻しを当初から意図していたのかもしれない。
だとすれば、オ社経営陣は最終的にオ社が買い戻した値上がり分の$443M(ワラントを含めれば$493M)については、もう少し声高に「報酬ではない!」と主張するのが道理だが、「一連の報道に対する当社の見解について」における記載は心なしか控えめだ。

オリンパス騒動 まずは経緯の整理 <FA報酬> 経緯 2010年3月31日 にあるとおり、この買戻しで$435Mがのれんに計上された、とウ氏は指摘している。それが事実であれば、まったくの推測だが、この$443Mという巨大な金額が当期(買戻しを行った2010年3月期)の損失になることを避けるため、のれん計上が必要で、そのためにはこれが当該M&Aにかかる手数料であると説明する必要があった。皮肉にもそれは当初このスキームが目指した、値上がりしたストックオプション(後のワラント、優先株)の買戻しによる資金移動は過去の買収手数料とは関係ないという建て付けと矛盾するものだった。ということなのかもしれない。

2011年10月24日月曜日

オリンパス騒動 疑問編1 CEO?


「疑問編」と言っても色々あり過ぎてどこから手をつけて良いかわからないが、意表をついてCEO(Chief Executive Officer;最高経営責任者)の件から始めよう。

ウ氏がオ社取締役会で代表取締役・社長執行役員を解職されたのは同社プレスリリース(「代表取締役の異動に関するお知らせ」)のとおりだが、ここで気になるのはウ氏が菊川氏にあてた手紙(ウ氏資料)の中で「私がCEOに任命されたことが日本語ウェブサイトでは公表されていない」と指摘していることだ。企業ウェブサイトの日本語と英語で情報量に差があることは珍しくないけれど、CEOタイトルのような重要なことについて違いがあるはずはないと思って同社ウェブページ英語版BOARD OF DIRECTORS, CORPORATE AUDITORS AND EXECTUTIVE OFFICERS (As of June 29, 2011)をチェックすると、確かにChairman & CEO Tsuyoshi Kikukawa, President & COO Michael C. Woodfordと書いてある。本年6月の株主総会後新役員体制発足時点では菊川氏がCEO、ウ氏がCOOだったわけだ。英語では。それに対応する日本語版(というのもへんだが)2011年3月期有価証券報告書を見るとCEO, COOの記載はない。それならとウ氏解任決議プレスリリース英語版を探してみると、なんとこちらにはウ氏解任前の役職として ”Representative Director, President and Chief Executive Officer”と記載されているではないか。ということは、

・CEO,COOの役職を英語版では公表し、日本語版では公表していない
・本年6月29日時点では菊川氏がCEOだったが、10月14日以前のどこかでウ氏がCEOに昇格していた(ただし英語版)

これを裏付けるように前述のFinancial Times記事(Ex-Olympus chief questioned payments)には「わずか2週間前にchief executiveになったばかり」という記述がある。ということは、ウ氏は本年10月1日前後に菊川氏に代わってオ社CEOに昇格した直後の10月14日に突然解任されたことになる。
だとすればウ氏解任プレスリリースが挙げている「マイケル・シー・ウッドフォード氏と他の経営陣の間にて、経営の方向性・手法に関して大きな乖離が生じ」という解任理由は説得力に欠けると言わざるを得ない。仮にそのような解任理由が本当だとすれば逆に2週間前にCEOに任命した側の責任を問われることになるだろう。

【疑問】CEO任命と直後の解任の責任
任命責任。政治の世界でよく耳にするが、政治の世界でそうであるように攻める力は強くない。そのような混乱を招いた取締役たちを株主が信任し続けるかどうか、に尽きる。

【疑問】CEO任命を日本語で開示していない
こんなに大事な決定事実を速やかに開示しないとは問題ですね、東証が黙っていませんよ、と思って東証の開示ルールを紐解いてみた。上場規程402条第1号aaによれば「代表取締役又は代表執行役の異動」についての決定があった場合には直ちにその内容を開示することが義務付けられているものの、最高経営責任者については「代表取締役等の異動に該当しないときでも、開示することが望まれます」(会社情報適時開示ガイドブック2011年6月版)と腰の引けた努力義務になっていた。なるほどこれではルール違反を問うことはできないが、いずれにせよ日本語と英語で開示内容が異なる点は要改善であろう。

2011年10月23日日曜日

オリンパス騒動 まずは経緯の整理

オリンパス株式会社の社長解職に端を発した騒動(以下「本件」)について、備忘も兼ねてまとめついでにアップ。

こういった不祥事(確定していないが)が起こると「監督官庁や検察は早く動け」という声があがるもので本件も例外ではないようだが、企業の中で自社を守ったり他社を攻めたりする仕事に携わっている身としては、経営の失敗(と思われるもの)を違法性で攻めるのは難しいと思う。
このような観点から、本件において違法性を追求するのが意外に難しい点、それでも攻めるならどこがポイントか、も付け加えてみたい(できたら)。

経営の失敗は会社に損失をもたらし、企業価値を毀損し、株価を下げる。それで困るのは株主だ。株主は自らの財産の価値増大と維持管理を代理人としての取締役/監査役に委任しているわけだから企業不祥事について一義的に行動の責任を負うのは株主と取締役/監査役である。
コーポレート・ガバナンス一般に敷衍すれば、法令やレギュレーションの強化よりも大切なのは資本の論理、市場の論理に従った当事者自らの最適化行動を促す仕組みと環境であろう。

<参考資料>
・マイケル・ウッドフォード前社長(以下「ウ氏」)の主張
2011年10月11日付 Letter 6: SERIOUS GOVERNANCE CONCERNS RELATING TO THE COMPANY’S M&A ACTIVITIES (以下「ウ氏資料」)

・オリンパス株式会社(以下「オ社」)の主張
2011年10月19日付 「一連の報道に対する当社の見解について」(以下「オ社資料」)

・オ社追加情報開示;Gyrus社及び3社買収について経緯の詳細

・監査法人の交代プレスリリース(2009年6月)

・ウ氏が社内疑惑を追求する発端となったFACTA記事

・ウ氏社長解職プレスリリース

・ウ氏解任と疑惑を報じたFinancial Times記事


■ Gyrus社買収の件
<FA報酬> 経緯
2006年6月5日
 ファイナンシャルアドバイザー(以下「FA」)AXESと最初の契約締結
 ・基本報酬 $5M
・成功報酬 買収金額の1%(ただし現金20%、ストックオプション80%)

2007年6月21日
 AXESとの契約改訂
 ・成功報酬 買収金額の5%(ただし現金15%、ストックオプションとワラント85%)
 ・成功報酬の現金部分の支払いを取引完了日ベースから取引公表日ベースに変更
 *この改訂は稟議で決裁され、取締役会では2007年11月19日に事後承認された
 *契約書の文言により実際には5%を大きく超える報酬計算を可能にしている

2008年2月
買収完了に伴い、成功報酬は以下の通り計算
$12M 現金
$177M ストックオプション
$189M 合計(買収金額の10%)

2008年4月25日
取締役会決議にてGyrus社はオ社組織再編対象に。この結果Gyrus社の再上場可能性がなくなったためAXES保有のストックオプションを優先株($177M)と交換し、ワラントをオ社が$50Mで現金で買い取ることに

2008年7月31日
ストックオプションと引き換えに発行する優先株について、KPMGとWeil, Gotshal & Mages (WGM)は「(優先株発行ではなく)現金でストックオプションを買い上げることが望ましい」とアドバイス → オ社に受け入れられず

2008年9月30日
オ社、Gyrus, AXES, AXAM間の株式引受契約に基づき優先株発行
・額面$177M
・配当は額面に対し年率10%(無期限)→ 後にGyrus税引後利益の85%に変更

2008年10月3日
 オ社サイドレターにてAXAMに重要事項の拒否権を含むGyrusのrights of controlを付与

2008年11月25日
AXAMがすべての投資資産を現金化したいので優先株をオ社が買い取るか、他の譲渡先を見つけるようオ社に要請。AXAMの要望額は$532M - $592M。オ社が独自に得た新光証券による評価額は$557M

2008年11月28日
 オ社取締役会にて$530 M - $590Mの範囲で買戻しを承認

2010年3月16日
AXAMのサガワ氏が優先株を$730Mですぐに買い取り3月末までに送金するよう要請
前回交渉時の$532M - $592Mより金額が大きく上がっているのは重要事項拒否権と大きな配当率によるコントロール・プレミアムを考慮

2010年3月31日
 $620MをAXAMに支払。$620Mは自社評価額$519MとAXAM主張$730Mの中間
 これによりのれんが$435M増加と指摘(ウ氏)

2011年10月14日
 オ社取締役会にてウ氏を代表取締役および社長執行役員から解職
 特別利害関係のあるウ氏は決議に参加せず他の取締役全員一致で決議(オ社)


<FA報酬> まとめ
当初の合意と最終的に支払った報酬額
2007年改訂版

最終支払額

基本報酬
$5M
基本報酬
$5M
成功報酬(現金)
$12M
成功報酬(現金)
$12M
オプション
$177M
ワラント
$50M


優先株の買取
$620M
合 計
$194M
合 計
$687M

<英国との関係>
ウ氏が英国当局と接触している旨の報道がなされているが、ウ氏資料にも言及がある。
the UK Companies Act 1985により買収対象会社(ここではGyrus社)が買収会社(オ社)に経済的支援(AXAMに対する優先株発行)を行うことは禁じられており違法である(ウ氏)

<会計>
Gyrus社2009年3月期財務諸表において同社優先株負債は額面で計上されているが、2008年11月28日にはオ社が額面をはるかに超える金額で当該優先株の買取を決議していたため、これは誤りであると指摘(ウ氏)

Gyrus社2009年3月期の会計監査においてKPMGは意見表明を差し控えており、また優先株発行について「適切な会計記録がなされていない」と指摘(ウ氏)
なお、オ社の会計監査人は2009年6月にKPMG(あずさ監査法人)から新日本有限責任監査法人に変更されている。理由は任期満了

<FAの実態>
2011年10月23日付 The New York Timesが本件に関与したとされる人物とFAについて報じている(2 Japanese Bankers at Heart of Olympus Fee Inquiry)。
AXESはアメリカ籍の会社で2008年3月(Gyrusのディールが成立した翌月)に当局に対して活動停止を通知している。AXAMはケイマン籍の会社で2010年6月(優先株の売却代金を受け取った3ヵ月後)にライセンスフィーを払わずに登録を取り消されている。NYTによればこの2社の実質的な経営者は同一人物である


ふうう。まずはここまで。次回は「疑問編」突入を目指しましょう。


※ 2011年10月23日 ウ氏代表取締役解任を追加(資料と経緯)
※ 2011年10月24日 ウ氏解任FT記事を追加(資料)
※ 2011年10月24日 NYT記事を基にFAの記述を修正
※ 2011年11月08日 オ社2011年10月27日付「当社の過去の買収案件に関する追加情報について」を追加