2012年9月4日火曜日

ドラクエ10のダイス賭博問題を考える

はぐれメタルを会心の一撃で倒すべくリムルダール周辺を彷徨し続けた日々。あれだけの時間と労力をまっとうなことに向けていれば自分は今頃、。。。いや後悔はありません。そのドラクエで賭博疑惑が持ち上がったとあっては黙ってはいられませんのです(10はまだ買っていませんけど)。

ことの発端は日経に掲載された新清士氏の記事。
2012年8月29日付 日経電子版「「ドラクエ10」揺るがす重大問題 基本機能を賭博に使うプレーヤー

ゲーム内でランダムに数値を返すダイス機能を使ってプレイヤー同士がゴールド(ゲーム内通貨)を賭けている行為が賭博または賭博場開帳図利(以下「賭博等」)に当り、ゲームを提供しているスクウェア・エニックス(「スクエニ」)もその幇助罪に該当し得るという指摘。
これに反応して同社株価が急落して騒動となり、ネット上でさまざまな意見や疑問が交錯した経緯と論点は同じ新氏によって以下にまとめられています(「「ドラゴンクエスト10」問題についての私的論点整理」)。

<スクエニは罪に問われる?>
スクエニ自身は賭博を行っておらず、ゴールドを販売しているわけでもありませんから賭博場開帳図利にも該当しません。これは同社プレスリリース(2012年8月30日付「「ドラゴンクエストX」に関する一部報道について」)で説明されている通り。可能性があるのは、プレイヤー同士が賭博等に該当した場合にこれを幇助した罪に問われるケースでしょう。幇助が成立する要件は、a)スクエニの幇助の行為と意思、b)正犯(プレイヤーの賭博等)です。

a)スクエニの幇助行為と意思
プレイヤーが賭場等をすることを知りそれを手助けする意図をもっての行為。違法行為が行われ得ることを認識しているだけでは幇助に当りません。例えばWinnyの著作権侵害幇助をめぐり最高裁は「入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って幇助に当る」(2011年12月20日)としています(*1,*2)。

これを当てはめればスクエニの幇助が問われるのはダイス機能が賭博に利用され得るという認識だけでは足りず、多くの人が賭博に使うだろうと認識した上でダイス機能を提供した場合ですね。

b)正犯(プレイヤーの賭博等)
それではプレイヤーが賭博罪に問われる要件を検討しましょう。
過去エントリ「ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座」で書いたように、「金銭または高額なモノ」を賭けてはいけません。一時の娯楽に供するもの(少額なモノ)ならokです。ではドラクエのゴールドはどうなんでしょう?

<アイテムの経済的価値>
今年前半、社会問題になったソーシャルゲームのコンプガチャは結果的に景表法「カード合わせ」に該当ということで規制されましたが、そのときに「「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準」が改正され、ネット接続型ゲームのアイテム等も「経済的価値を持つ」ことが明らかにされました。ただし、これは有料ガチャを繰り返して絵柄をそろえる行為を前提にしていますので(*3)、ドラクエのゴールドのようにゲーム内で無償で提供されている場合には議論の余地があります。
先に挙げた同社プレスリリース(2012年8月30日付「「ドラゴンクエストX」に関する一部報道について」)において、「「ドラゴンクエストX」におけるゲーム内アイテム、ゲーム内通貨は無償で提供されているものであります。」とあるのはこの点を意識していると思われます。

もちろん入手時に無料でもゴールドが経済上の価値を持つことはあり得ます。客観的にそれが明らかになるのがRMT、特にネットオークションを用いたRMTです。この論点については、しつこくて恐縮ですが過去エントリ「ソーシャルゲーム ガチャとRMT集中講座」を参照ください。
スクエニとしてはRMTを規約で禁止しているわけですが、それだけに留まらず厳しい態度で、例えばRMT利用者への注意やアカウント利用停止等を行って、大多数のプレイヤーがRMTを行わない状態を保てれば、仮に「例外的に」少数の者がRMTに手を出したとしてもドラクエのゴールドは、換金が容易ではないため経済価値がない、あっても低いということになります。

このようにゴールドの経済的な価値がない(あったとしても低い)ならば、たとえそれを賭けてダイス機能で遊んでも「一時の娯楽に供するもの」であって賭博には該当しません。正犯(プレイヤーの賭博等)が存在しなければスクエニの幇助もなし。

仮に「例外的に」一部のプレイヤーがRMTを通じてゴールドを「高額なモノ」として賭けの対象とすれば賭博罪に該当する可能性は否定できませんが、その賭博行為が「例外的」であれば上述の判例によってスクエニが幇助の罪に問われることはなさそうです。

これがスクエニの考え方ではないでしょうか。

<フィロソフィー?>
スクエニが「「ダイス機能」に関するご案内(2012/08/30)」において
「ダイス機能」を利用したアイテムやゴールドの交換に関して、常識的なやり取りであればゲームシステムを利用したゲームプレイのひとつと考えております。
とダイス機能を利用したゴールド交換を認めている点について、ネット上では「賭博罪のリスクがあるのだから止めるように呼びかけるべきだ」との意見もありましたが、ここまで見てきたように、むしろゲーム内では「規約を守っている限りリスクはない」と言い切ることによってプレイヤーに安心安全に楽しんでもらう。それがスクエニのフィロソフィーなのかもしれませんね。
で、同社がRMTに厳しい態度を取り、仮にRMTが行われても「例外的」と言える状況を保持することが、この考え方の大前提なのだと言えるのでありましょう。

いつもながら個人の立場での考察と推測です。投資判断に用いてはなりませぬ。お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。


(*1)Winny最高裁判例については高橋淳弁護士のブログ(「Winny 最高裁判決」)を参考にさせていただきました。

(*2)Winny判例では正犯が著作権侵害でしたが、ここでは賭博罪であるため、まったく同じ考え方が適用されるとは限らない点に注意。

(*3)消費者庁「「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて