2012年2月27日月曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金と会計基準

前回のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その3)」(以下「その3」)で取り上げた課金アイテムを引き続き検討。
(しつこくてすいません、あくまで私的な備忘録ですからっ!)

平成21年7月9日付 日本公認会計士協会 会計制度委員会研究報告第13号 「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」 ケース41はオンライン・ゲーム内におけるポイントの販売収益を取り上げている。ここでいうポイントはアイテム(カードを含む)を買うためのゲーム内通貨(コイン)も含んでいるので、ここではコインと表記する。

中間報告によれば、ソーシャルゲームにおける課金アイテム販売は役務の提供に分類されている。物品販売のような売り切りでなく、ネットワーク上でユーザにアイテムを利用させる継続的な役務ということであろう。
なるほど「その3」における業界側の主張とも密かに合致しているではないか。ならばその会計基準に従って考えてみよう。

コイン購入を経由した有料アイテムの購入は以下のように分解できる。

(ゲーム提供者から見て)
1) コインの販売
2) コインとの引き換えによるアイテム販売
3) ユーザによるアイテム利用開始
4) ユーザによるアイテム利用終了

中間報告によれば、役務の提供が終了するのは4)ユーザによるアイテム利用が終了したときである。

<返品権再論>
ここで経済産業省準則を再掲。
特定商取引法上の返品権が認められるのは「商品」及び「指定権利」の返品であり、役務提供契約については認められていない。これは、役務は一般的には返品が考えられないため (経済産業省 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」 )
役務の提供が終了した後での返品になじまない、ということで特定商取引法上の役務には返品権が認められない。だが、ソーシャルゲームのコインはアイテムの利用権引換権であって、英会話教室のチケットみたいなものだ。さらにコインとアイテムを交換した後でもユーザが当該アイテムを利用し終えるまでは役務の提供が完了していない。
特にユーザの投じた金額が大きい場合には、返品もしくは契約解除について慎重な検討が必要だろう。

<債務不履行>
このように、ソーシャルゲームのコイン及び購入された課金アイテムは、ともにゲーム提供者による役務の提供が終わっておらず、この状態で一方的にユーザのコインやアイテムが利用できないような事態が生じれば、ゲーム提供者の債務不履行である。
もちろん物事には重要性の原則があるわけで、僅少な金額なら「規約承認という事前の合意があった」と言えるだろうが、例えばユーザが数万円を投じて得たアイテムについてゲーム提供者が、規約を盾に自らの債務を履行せずユーザが支払った対価を手中に収めることは正当化できるのだろうか?

<implication>
わかりにくいので少し解説。
課金アイテム購入という取引の性質について、まず単発の物品販売か、継続的な役務の提供かという分類がある。ゲーム提供者側としては、
a)販売後もゲーム管理のため(例えば利用停止等)物品売切りではなくユーザに対して権利を留保したいし、
b)返品に係る規制回避のためにも継続的役務の提供と解釈したいだろう。
これは、「その3」で指摘したように運営側による「利用許諾(役務提供)」という主張と整合的だ。そして本エントリで見てきたように会計的にも課金アイテム販売は、役務の提供と位置づけられており、ゲーム提供者の考えと一致している。
このように継続的役務提供説に立つと、役務提供の終了時期はユーザがアイテムを利用し終わったときになる。そうであればゲーム提供者は、
a')ユーザがアイテムを利用し終わるまでユーザに対して管理のための権利を持つだけではなく、本旨に従ってユーザにアイテムを最後まで利用させる債務を負担しており、
b')さらに役務提供が終了していないのに前払金を預る場合(特に金額が大きい場合)の一般的な消費者保護問題も検討する必要があろう。

<付記>
あずさ監査法人による(中間報告)の解説
業種別収益認識基準の考察 第3回 ゲーム・オンラインビジネス等AZ Insight volume 39, 2010 May

※ 2012年2月28日 <implication> 追記

2012年2月22日水曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その3)

注目を集めているトピックを扱ったせいか、当シリーズは多くの方にご訪問いただき小心者の筆者は恐縮している一方で、せっかくなので2月6日のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制の予備的考察」(以下「予備的考察」)について、少し補足をしておきたい。

<風俗営業法と賭博>
「予備的考察」で、ガチャ等が射幸心を煽るのであれば風俗営業法の適用も視野に、と書いた。
これは一見すると新たな規制をソーシャルゲーム(のガチャ)に課すように思われるかもしれないが、真意はそこではない。

繰り返すが我が国で賭博は違法。射幸心を煽ってはいけないのである。射幸心を煽ってはいけないんだけど、まぁある程度以下ならね、ということで風俗営業法の規制の範囲内であれば営業が認めれられている。要するに、パチンコやパチスロは風俗営業法に従うことによって賭博罪の適用を回避しているわけだ。ちなみに宝くじや競馬等の公営ギャンブルはすべて特別法を根拠法に持つことで合法化されている。

では、風俗営業法の適用外で射幸心を煽ってしまったらどうなるか? もちろん違法である。賭博を行った者も、賭博サービスを提供した方も罪に問われる。ということは、風俗営業法(または特別法)の適用がないソーシャルゲームのガチャが【仮に】射幸心を煽る、即ち賭博とみなされた場合には。。。以下省略(小心者につき)。

なので射幸心を煽る恐れがあるとすれば、風俗営業法等の規制に従う方がむしろ業界とユーザのため、という考え方もあろう。

<課金アイテムと返品>
「予備的考察」で課金アイテムの購入は通信販売の返品にかかる規制が適用されると指摘した。これも話せば長いテクニカルな論点を含むお話。
特定商取引法上の返品権が認められるのは「商品」及び「指定権利」の返品であり、役務提供契約については認められていない。これは、役務は一般的には返品が考えられないため (経済産業省 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」 ,以下「準則」)
要するに「役務」には返品に関する同法上の規定が適用されない。ではソーシャルゲームの課金アイテムは「商品」か「指定権利」か「役務」か。

前回も取り上げた、消費者庁インターネット消費者取引連絡会第4回会合の資料に、
オンラインゲームの利用規約によっては、ユーザはゲーム内のアイテム等について”利用権”を有するのみで、”所有権”等の権利を有していない、利用資格を喪失場合は未使用分のコインは消滅する、当社が受領した料金等の払い戻しは一切行わない、と記載されていることもある(資料2-1「オンラインゲームによる相談事例」)
との記述がある。課金アイテムは”利用権”なんだから「商品」か「指定権利」に該当するもので、少なくとも「役務」ではなさそう。そうであれば返品に係る規制が適用される。

ところで同じインターネット消費者取引連絡会第4回会合の資料には気になる記載がある。ゲーム上の財産(アイテムや通貨)について、
※運営側の見解では、「財ではなく運営会社が所有するデータの使用許諾(役務提供)に過ぎない」(資料1「オンラインゲームの消費者トラブルについて」)
という。
ん? 使用許諾(役務提供)? ゲーム運営会社が許諾してプレイヤーが使用するのに「役務提供」って不自然では? 役務提供というのはこのコンテキストでは通常ゲーム運営会社が何らかの行為を行うことであって、ユーザがアイテム使用という行為を行う場合には当てはまらない気がする。
そしてこの何気ない記載が、
ソーシャルゲームにおける課金アイテム購入は「役務」の提供ですから返品規定は適用されませんよ!
というゲーム運営会社の周到な布石なのかもしれないと疑ってしまう自分はもう大人になり過ぎてしまったのかもしれないという自己批判とそんな布石を論破する思考実験との間で揺れ動く今日この頃なのであります。


<disclaimer>
いつもどおり考えながら調べながらの予備的メモですので、お気づきの点等がありましたら優しくご教示いただきますようお願いします。

2012年2月16日木曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制(その2)

2月6日のエントリ「ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察」の続き。

本日16日、消費者庁のインターネット消費者取引連絡会の第4回会合が行われた。アジェンダと資料は消費者庁ホームページで公開されており、以下の通り。
  • 議事次第
  • 資料1 オンラインゲームの消費者トラブルについて
  • 資料2-1 オンラインゲームに関する相談事例
  • 資料2-2 特別相談「インターネット取引トラブル110番」の実施結果について
  • 資料3 事業概要および消費者対応に関する取組み
  • 資料4 DeNAのサービス概要と消費者対応について
  • 資料5 オンラインゲーム消費者トラブルの法律問題
  • 資料6 第3回インターネット消費者取引連絡会議事要旨
資料1「オンラインゲームの消費者トラブルについて」は一般社団法人ECネットワークがまとめたもので、p3「トラブル事例パターンと論点」でアイテム販売やガチャ課金方法について、論点として景品表示法違反の可能性と賭博該当性??(原文ママ)が挙げられている。
ここまでは実は昨年12月に行われた第3回会合の資料でも同様の記載があり目新しいものではなく、前回エントリで書いたとおり消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」は、景品表示法の観点からはアイテム課金規制に対しては及び腰だし、ガチャは言及すらしていない。

今回はトラブル事例として未成年の高額課金が追加され、さらに資料5「オンラインゲーム消費者トラブルの法律問題」で森亮二弁護士(英知法律事務所)がいくつかの論点について法的検討を行っている。資料5 p5「オンラインゲームと賭博」では、
近時、現実のパチンコ店におけるパチンコ、パチスロ等とまったく同じ仕様のオンラインのパチンコ、パチスロ等が出てきている
とした上で、
オンラインのパチンコやゲームが急速に普及する状況下で、風適法(注1)の適用がない、オンラインのパチンコやゲームについての何らかのルール策定を検討する必要があるのではないか。
と規制の必要性を指摘している。これはガチャよりもネット上のパチンコ/パチスロを念頭に置いているようだ。今月、携帯賭博サイトが摘発されていることと関連があるのかもしれない。

せっかくなので、消費者庁及び関係者におかれましては当ブログをご一読いただき、ガチャも同様に賭博罪及び風俗営業法の観点で検討すると同時に、特定商取引法の兼ね合いも併せて検討して経過と結論を公表して欲しいものであります。


 (注1) 風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律。当ブログでは風俗営業法と表記

2012年2月12日日曜日

子育てとコーポレート・ガバナンス

突然ですが質問です。

「そんなんじゃ、皆に笑われるよ」と子供に言ったことがありますか?
お子さんがいない方は、自分がそう言われて育てられましたか?

筆者には小さな子供が二人いて、振り返ってみるととときどき言っている。

昨年12月のエントリ「日本型コーポレート・ガバナンスの行方」と「「日本型コーポレート・ガバナンスの行方」の背景」で書いたように、日本社会は市場志向の努力が進められる一方で、いわゆる旧来の日本的関係志向が強固に残っており、私見では2005年前後からむしろ日本的関係志向への揺り戻しすら感じる。

開国、明治維新に始める欧米文明移植から第二次世界大戦敗戦でいったんリセット方向修正、戦後民主主義のもとで高度経済成長を謳歌した後の近代化総仕上げとして1990年代後半に行われた市場化=欧米化改革で日本はグローバル化を完了。のはずだったのだが。。。

筆者はもう40代なので、20代、30代のときのように誰かを悪者に仕立てた陰謀説や日本もうダメ=アメリカ万歳説に与するのではなく「なぜ、どのように日本的伝統的価値観が社会に保存されるのか」を考えるべく改めて日本社会についての本を読んでみた。
そのうちの一冊がルース・ベネディクト『菊と刀』(1946)。言わずと知れた日本人論の古典で、彼女は日本を訪れたことがなかったが、文化人類学観点からなされたその考察は単なる歴史的興味ではなく【現代の】日本人論としても通じる鋭い指摘が多い。

『菊と刀』は指摘する。
日本では「赤ん坊と老人とに最大の自由と我が儘とが許されている」。この指摘で誰を我が儘老人として想起するかは各自にお任せするとして、本題はここから。
(幼少時に親にからかわれた)「このような経験は、成人した日本人に顕著に認められる、嘲笑とつまはじきに対する恐怖心を培う肥沃な土壌となる」 
「年長者は子供に向かって、「これこれのことをすれば、世間の人の笑いものになる」と言い聞かせる。」
 「これらの規則は、自分の意志を、しだいに増大していく、隣人、家族、ならびに国家に対する義務に服従せしめることを要求する。」

要するに、
他人から笑われれば恥である。自分の恥は自分の属する組織の恥である。周りに迷惑をかければ仲間はずれという懲罰を被る。

こうやって見てみると、まさにムラ社会の掟である。そして子育てにおけるこの掟の伝承は、まさにある環境下での生存戦略伝授に他ならない。

子育て中の我々もまたそのプロセスのまっ只中にいる。そう、子供に「そんなんじゃ笑われるよ」と言って躾を行うことは、進んだ西洋文化に対置される時代遅れの(?)日本的関係志向社会の維持を無意識のうちに担っているということだ。
では我々は市場化を推進したい場合、悔い改めて教育方針をリセットすべきなのか? 子供に「笑われますよ」と言えばたちまち守旧派になってしまうのか?

恐らくそう簡単ではない。先ほど「ある環境下での生存戦略」と述べた通り、現状の日本でうまくやっていくためには、現状の日本に合わせた行動がまずは必要なのだから。

今日はここまで。

2012年2月6日月曜日

ソーシャルゲームのアイテム課金、ガチャ規制についての予備的考察

前回のエントリ「ステマ、サクラ規制に関する簡単な日米対比考察」に続いて、ソーシャルゲームにおけるアイテム課金といわゆるガチャについて考える。
<参考>
・2012年1月25日付 日経記事「ソーシャルゲームが抱える潜在リスク 「射幸心」あおる仕組みとは」(以下「日経記事」)
消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「留意事項)は、口コミだけでなく、無料ゲームのアイテム課金の問題もフリーミアム類型として取り上げており、景品表示法上では「無料で利用できるサービスの具体的内容・範囲を正確かつ明瞭に表示」すれば問題ないとしている。

うーむ、それはそうなんだが。。。またしても違和感を感じてしまう。

アイテム課金の問題はユーザの十分な自覚なしに後からゲームで数万円、数十万円の請求をされたり、その中に未成年が含まれている場合だろう。これは購入意思決定の問題。さらに「日経記事」でも指摘されているように、この消費者庁「留意事項」はガチャに触れていない。こちらは購入意思決定の問題に加えて射幸性の問題。

<購入の意思決定>
人間は心の生き物であるからして、どこで、どんな状況でその買い物を決めたか、というのはとても重要である。意思主義なのである。だから法はクーリングオフの制度を定め、自発的意思でじっくり考えたのではない購入、例えば販売業者が自宅に押しかけてきた場合や、街を歩いていてキレイなお姉さんに誘われるままに素敵な絵画を買ってしまった場合などには一定の期間内に解約できることになっている。

この考え方を適用すれば、多額の支出の自覚なしに遊んだ後で数万円数十万円の請求が届いたり、未成年(またはその親)が高額な支払いを余儀なくされる問題があるなら、「じっくり考えて自発的に意思決定した」というプロセスが必要であるし、そうでない場合、特にゲーム提供者側にその非がある場合にはクーリングオフの適用も考えられるだろう(もちろんクーリングオフを推奨するのではなく、購入者が冷静に考えるプロセスを用意すべきという趣旨であります)。

ところでソーシャルゲームの課金アイテムは通常返品キャンセルが不可であろう。だとすれば課金アイテム購入は通信販売に当るから、返品に関する定めは見やすい箇所に表示するだけでなく、購入申込画面にも記載しなければならない(特定商取引法第15条の2第1項、特定商取引法施行規則第9条第3項、通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン)。

要するに、課金アイテムを購入するたびに最終申込画面に明瞭に「キャンセル不可ですよ」と表示するか、さもなければ8日以内に返品可能だということになる。筆者は自分でこういったゲームを遊んだことがないので実際の表示がどうなってるかわかない。経験者の皆様よりご教示いただけると幸いであります。

<射幸性>
ガチャ。
スロットマシーンのようなもので結果により得られるアイテムの価値が大きく異なるなら、射幸心を煽ると考える余地は大きいだろう。そもそも高額な賞品を提供して射幸心を煽るのは賭博罪で違法(刑法第185条)。賞品が「一時の娯楽に供する」ならこの限りではないが、ガチャで得られた賞品がネットオークション等で数万円で取引されていたり、またその賞品欲しさにガチャで何万円も使ってしまうなら、ちょっと一時の娯楽に供するものというのは難しい気がする。

射幸心を煽る恐れがあるならパチンコやゲームセンターがそうであるように風俗営業法の適用も視野に入る(風俗営業法7号営業、8号営業)。仮にそうなるとこうしたゲームの提供には風俗営業法上の許可が必要になったり、未成年遊戯の可否、あるいは営業時間の制限等がかる。
もちろん現行風俗営業法は店舗営業が対象だけれど、法の趣旨に鑑みればネットへの対応も必要に応じて考慮する必要があろう。風俗営業法の目的の一つは「青少年の健全な育成」である。

さらに、ガチャもまたアイテム購入と考えれば、先に指摘した特定商取引法の返品に関する表示が必要。即ち、何回もチャレンジする場合には毎回表示される最終申込画面に「キャンセルできませんよ」という表示が明瞭に表示されることになる(そうでなければ事後でキャンセル可)。

<まとめ>
どうなんだろう? と思って自分で調べた備忘録を兼ねたpreliminaryな考察なので、ご指摘事項等ありましたらお知らせいただけるとうれしいです。突然の攻撃はご遠慮願います。羊のように小心者ですので。


<おまけ>
ネット先進国のお隣韓国では、ネット上のゲームに関する厳しい規制が導入されており、射幸性の強いゲームも禁止されていると聞く。ご存知の方がおられましたらご教示をお願いする次第であります。

2012年2月4日土曜日

ステマ、サクラ規制に関する簡単な日米対比考察

年明け早々カカクコムが運営するサイト「食べログ」の不正投稿が報道されて以来、ステマ(ステルス・マーケティング)がバズワードになっている。

・2012年1月4日付 日経報道 「「食べログ」にやらせ投稿 カカクコムが法的措置も
・2012年1月5日付 カカクコム社プレスリリース「本日の報道内容に関して

これを受けて消費者庁が調査を始めたとされるが、その後、現行の景品表示法では法的規制は難しいという消費者庁の認識も報道されており、なんとなくモヤモヤした状態が続いている。

「食べログ」騒動に対応して消費者庁がすぐに動いた(ように見える)のには伏線があって、既に一部で指摘されていたインターネット上のゲーム課金や口コミサイトへのサクラ投稿の問題を受けて、同庁は「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「留意事項」)を昨年10月に発表している。

ここでは口コミサイトへのサクラ投稿の問題に絞って話を進めよう。

「留意事項」によれば、現行の景品表示法で考える限り、サクラ投稿は「実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には」不当表示として問題となる。飲食店(飲食店に依頼された第三者を含む)が地鶏の産地を偽る投稿を行うこと、が例示されている。産地偽装はステマやサクラから独立してそれ自体がルール違反だから、ステマやサクラは新たな問題を付加していないようにも読める。

うーん、そうなのか。なんとなく違和感が残る。なんだろう、この違和感の原因は?
ステマの本質的な問題は、投稿者(宣伝者)が第三者を装っているところでしょう。地鶏の産地の話じゃなくて。

広告規制が厳しいと言われる米国はどうなんだろうか。
さすが消費者庁、「留意事項」の中で米国の規制状況を引用している。2009年12月に連邦取引委員会(FTC)が公表した「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」(以下「米ガイドライン」がそれである。消費者庁「留意事項」の引用によれば「米ガイドライン」では、
この中でFTCは、広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両社の間に重大なつながり(material connection)があった場合、広告主のこのような方法による虚偽の又はミスリーディングな広告行為は、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当り、広告主は同法に基づく法的責任を負う、との解釈指針を示している。
ふむふむそうですか。日本と大きくは変わらないようですね。

ではFTCサイトで原文 "Guides Concerning the Use of Endorsement and Testimonials in Advertising" に当ってみましょう。いくつか頑張って和訳(誤訳御免)。
S255.1 (d) 広告主は、広告主以外の人物による推薦内容が誤っていたり裏付けがないときに、または広告主と推薦者の重大なつながり(筆者注;金銭的なやり取り等)が明示されないとき責任を負う。推薦者もまた推薦内容に責任を負う場合がある。
S255.1 Example 5 スキンケア商品の広告主がブログ広告サービスを使うと、同サービスはブログで広告主の商品の販促を担うブロガーを選び出し、広告主は新しいボディローションを試してレビューをブログに書いてくれるようブロガーに依頼する。広告主がそのボディローションの特定の効能について言及せず、ブロガーも効能の裏付けがあるかどうか広告主に質問しなかったが、ブロガーはこのボディローションで湿疹が治ると肌荒れに悩む読者にブログで推薦した。この場合、広告主はこのブロガーのミスリーディングまたは裏づけのない推薦に責任を負う。ブロガーも同様である。ブロガーはこのブログ広告サービスで報酬をもらっていることを明示しないと、この点についても責任を負う。
S255.2 (a) ユーザによる推薦を使用する広告は、その商品がその広告で描かれた目的に有効であることを表明したとみなされる。したがって、ユーザ推薦を用いることなく広告主自身が広告を作る場合と同じように、ユーザの推薦内容について、それを支持する適切な裏づけ、適当な場合には信頼できる科学的なエビデンスが必要である。ユーザの推薦自体は適切で信頼できる科学的エビデンスではない。
あらら、日本の「留意事項」に比べて厳しいんじゃないでしょうか。かなり。
  1. 推薦者が広告主から報酬(金銭、または無料商品)を得ている場合、それを明示しなければならない
  2. 広告主以外のユーザ等が商品の推薦を行う場合であっても、広告主はその推薦内容について、広告主自身が直接広告を行う場合と同様の裏付け(適当な場合には科学的根拠)が必要
特に1.の広告主との関係は、「口コミによる推薦に対する評価や信頼性に重要な影響を及ぼし得るので明示される必要がある」と「米ガイドライン」が規定しているのに対し、日本の「留意事項」では言及がない。というよりも先の引用で明らかなように意図的にこの点を避けているようにも見えますね。まぁ、景品表示法上では、という限界なのかもしれませんが。。。

まとめると、まず日本の「留意事項」を一読して感じる違和感と、アメリカの「米ガイドライン」を読んで明らかになる日米差異は同じ問題で、それは「広告主と口コミ投稿者との関係」。口コミ情報の信頼性に重要な影響を与えるこの関係について、アメリカでは明示を義務づけ、日本では特に規制なし(アメリカでの実際の運用がどのようなものかはわかりませんが)。

情報の信頼性はネット社会における重要な論点であり、「誰がその情報を発信したのか」、「誰がその情報を評価したのか」につながっていく。この点は日本でももう少し議論の必要があるようですね。

最後に「誰がその情報を発信したのか」、「誰がその情報を評価したのか」という現代的な課題について、前近代的と忌避される「伝統的日本社会=ムラ社会」が一つの解を提示していたという皮肉を付記しておきたい。